88話 ボイスレコーダー
「ねぇ!待ってよかずくん!」
莉菜は一輝を制止させようと試みる。
愛羅の元を去ってから2人はしばらく無言だった。静かに校舎の階段を上がっている最中でもあった。
一輝は声に反応し、口を閉じながら立ち止まった。
一輝の方が前に身を置くのにも関わらず、振り返らない。背中だけを莉菜に向けた状態だ。
「ちょっと何か言ってよ。無視しないでよ・・・」
莉菜は悲しそうに不満を口にした。
瞳はわずかに潤み、落ち込む。大好きな幼馴染からの無視は傷つくはずだ。
一輝は制服のポケットからスマートフォンを取り出した。
手慣れた手付きで操作をする。
ロックを解除し、《《ボイスメモ》》といったアプリを起動させる。
そのアプリは不思議と稼働中だった。
一輝は躊躇なくボイスメモを停止する。
そして、保存されたデータを再生した。
最初は制服とスマートフォンの擦れる音が漏れた。この音声はしばらく続いた。
『ちょっといいかな?』
数分経つと、聞き覚えのある声が生まれた。
その声色の主は一輝だ。
「え・・」
莉菜は目が点になった。自然と口から出た言葉でもあった。
莉菜にとっては予想外の展開だったのだろう。
『なに?今から用事あるんだけど』
次の声の主は愛羅だ。
「この会話ってもしかして・・・」
「そう。莉菜の想像通りだと思うよ」
一輝は莉菜が気づいたことを推量し、ボイスメモのデータの再生をオフにした。
中途半端な場所で音声は終了する。
「録音してたんだ。爆弾発言などを証拠を得るためにね」
一輝はようやく振り返る。階段の上層に佇むため、自然と見下す形になった。
「すごいよかずくん!これなら稲田愛羅さんを追い詰められるかもしれないね!」
莉菜を笑顔で一輝を称賛し、上機嫌な口調に変化した。
「上手くいったらね。でもまだまだ着手しないといけない事柄があるよ」
一輝は難しそうな顔を示した。
これからのことを考えると、自然と表情が変形した。結構な面倒くさいことに着手する必要がある。
「何かやることがあるの?私なんでも手伝うよ!」
莉菜は毎度お馴染みやる気満々だ。豊満な胸の前で両拳をガッツポーズするように握る。
「うん。今回は俺からも進んでお願いしたかな。音声の編集は俺がするから。莉菜にはもう1つ必要な仕事に従事してもらいたいんだ」
「うん!」
一輝はSNSを開き、莉菜のトーク欄をタップした。
1文のメッセージだけをタイピングで打ち込み、送信ボタンを押した。
同時に、莉菜のスマートフォンが振動した。
莉菜は瞬時に制服からスマートフォンを取り出し、メッセージの中身を確認した。
「音声は俺が上手いこと編集してから送る。だから、まずは今、受信したメッセージを確認して欲しいんだ。この役割は今のところ莉菜のような知名度ある人しか不可能だから」
⭐️⭐️⭐️
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