84話 探り
場面は現代に戻る。現時点で3人はきれいに並んで歩く。一輝は真ん中、羽矢は右、莉菜は左といったポジションを取る。
「何だか少し元気が出て来たな。朝元ありがとうな!」
羽矢は薄く笑った。元気になり自然と笑顔がこぼれた。一輝に小学生の頃と同じ言葉を掛けてもらったからだろうか。
「いや、全然大したことないよ」
一輝は照れ隠しで素っ気なく答える。褒められるのに慣れていないからこういった態度を示す。
「そういったおごらないところも変わらないな」
羽矢は嬉しそうにする。おそらく、一輝が小学生時代から変わってないためだろう。
「なんだよ。変わってないって。いつのときからだよ」
一輝は唇を尖らせる。羽矢に変わってないと評されたのが気に食わなかったのだろう。
「ずっとだ!私が朝元に興味を持ってからな!!」
羽矢から悲しそうな空気はすでに消えていた。いつもの調子に戻りつつあった。だが、さすがに本調子とまではいかない。先ほどまで落ち込んでいたのだから。
一方、一輝は羽矢の言葉に隠された意味を理解するため脳みそを使ったが、無駄な時間を浪費した。なぜなら、一輝の記憶には思い当たる節などなかったから。
あれから時は進み、次の日の早朝。
一輝と莉菜はいつも通り一緒に登校する。今日も莉菜が7時30分ごろに一輝の自宅に足を運んだ。もちろん、莉菜は愛しの一輝と一緒に登校するために彼の自宅を訪問した。
「ねえ莉菜。1つお願いがあるんだけどいいかな?」
一輝は莉菜に目を向ける。理由は莉菜の気を引くためだ。
「それは全然いいけど。どんなことなの?」
莉菜は知りたそうに一輝に視線を移す。突然、一輝がお願いをしてきた。当然の疑問だろう。
「莉菜には増本が何に困っているかを探ってほしいんだ。直接ではなく周囲から情報を得てね。それと、増本に直接聞くのはNGね。絶対に話さないだろうから」
「それは全然いいよ。他ならぬ、かずくんの頼みだからね」
莉菜は大きな胸をえっへんと軽く叩いた。その反動で2つのかたまりがぽよんっと跳ねる。こういった行動は一輝に自分にはできるとアピールするためだろう。
「でもなんで私なの?そこは少し気になるかな」
莉菜は不思議そうに尋ねる。自分でできそうなことをなぜ頼んだのか。その件が気に掛かったのだろう。
「それは・・・。俺には人脈もないし人当たりもよくない。莉菜みたいに人気もない」
一輝は自分で言って悲しくなった。自分で情けない部分を口にしたためだ。とことん自分の無力さを感じる。自身の置かれた現実も嫌なほど把握する。
「そんなことないよ!かずくんには私と増本さんがいるから」
莉菜は一輝の胸中を推し量ったのだろう。素早くフォローをかました。昔からの付き合いで幼馴染だから一輝の考えが瞬時に理解できたのだろう。幼馴染の直感でも存在するのだろうか。
だが、残念ながら彼女のフォローは一輝の心に響かなかった。一輝は痛いほど自分自身の立場を認識していたから。




