83話 小学生時代
時は羽矢が小学校3年生の頃に遡る。
彼女は小学生の頃から圧倒的な美貌を持っていた。当時はロングヘアで、髪型はポニーテールにしていた。
ある日、羽矢は休み時間にもかかわらず、教室の自席に座り、ライトノベルに没頭していた。その際、彼女はベージュのカーディガンにブルーのワイドパンツを履いていた。
当時はIT技術の進展が顕著でなく、ネット小説など市場に存在しなかった。
「なあ、お前っていつもオタクの読みそうな小説を読んでるよな」
元気で活発そうな男子が軽い調子で羽矢に声を掛ける。その男子は呆れたような顔を示す。
「別に、私が何をしようと勝手でしょ」
羽矢は目も合わせずに冷たくあしらった。だが、声には幼さが残る。
その男子は羽矢の態度に苛立ちを覚える。それが即座にわかる顔を形成した。その証拠に男子の額にはっきりとした青筋が浮かぶ。
「なんだよ!その言い方!!せっかく声掛けてやったのに。女のクセに調子乗んなよ!」
男子が叫ぶように怒鳴りつける。自身の感情に従ったような物言いだった。
周囲のクラスメイトは驚き、一斉に羽矢達に視線を集める。
「どうせ。そんな小説つまんねぇにきまってる。なんせつまんねぇやつが好んで読むんだからな」
男子は羽矢とライトノベルを激しく批判した。悪びれる様子も見せず。
「・・・なんだと」
羽矢はその言葉に反応し、勢いよく立ち上がった。それから、鋭い目付きでその男子を睨みつける。おそらく、好きな趣味を強烈に批判されたことが彼女の癇に障ったのだろう。
「何だよ?」
男子は不敵な笑みを浮かべながら尋ねる。まるで、自分が優位に立ったと確信したかのような表情だ。女だからといって舐めているのだろうか。
「それはよくないと思うよ」
そんな最中、ある人物が羽矢達の対立に割って入った。
その人物の姿は羽矢と男子の視界にばっちり映る。もちろんはっきりと顔も映った。
その人物は小学生時代の一輝だった。
今よりも圧倒的に背丈は小さく、顔も幼い。その上、声変わりもしておらず、高校生の頃と比べてわずかに高い。
一輝は青のジャケットにベージュのチノパンを身に纏う
「なんだよお前?」
男子は矛先を変え、一輝きに詰め寄る。割って入られ、火に油を注いでしまったようだ。男子の暖かい鼻息が一輝に掛かる。
一輝はわずかにたじろぐ。数秒間、彼らは黙って見つめ合う。
「私もそう思う!」
「僕もそう思う!」
他のクラスメイトは一輝の意見に大いに同調した。意外にも、一輝の言葉は小学生の心に強く響いたのだろう。
次々とクラスメイト達が声を上げる。そのおかげで、教室は先ほどと比べて騒がしくなった。
「く、くそ・・・」
アウェイの立場に立たされた男子は渋々自身の席へと戻った。その足取りは普段よりも明らかに速かった。その間、男子は敏感に周囲を気にしてはショックを受けていた。
一輝はその男子の弱った背中をじっと眺めていた。
「あの、ありがと。助かった」
羽矢はそっぽを向きながら一輝にお礼を伝えた。幼く素直ではないところがまたかわいい。
「ああ。全然大したことないから大丈夫だよ」
一輝は軽く対応する。彼におごった様子は1ミリもなかった。
「それに俺もライトノベル好きだから。だから、ムカついたから行動したのもあるんだ」
一輝は無垢な笑みを浮かべた。その笑みは小学生らしく純粋でかわいらしかった。
「じゃあ俺は戻るよ」
一輝はひらひらと手を振るなり、踵を返して自席に向かった。
どんどん一輝と羽矢の距離は拡大する。一輝が進むたびに距離は拡がり続ける。目的地に到着すると、彼は慣れた動作で席に着いた。
一方、羽矢は一輝の背中をまぶしそうにじっと見つめていた。まるで大人の背中を見るように。
羽矢はこの出来事がきっかけで一輝を意識しだした。
それから、羽矢と一輝はライトノベルといった共通の趣味で意気投合し、どんどん仲良くなる。しかし、親しくなるのはこれからの話。




