82話 過去に聞いた言葉
一輝は羽矢と莉菜と並んで帰路に着く。一輝は真ん中で羽矢は右、莉菜は左といったポジションを取る。羽矢と莉菜は相変わらずスタイル抜群で、大きな胸も制服越しから強調される。
一輝達はいつも通り帰り道を進む。
だが、羽矢は普段と様子が異なり、考え込むような顔をしていた。
「どうしたんだ?増本らしくない顔して」
一輝は歩きながら、隣の羽矢に対して不思議そうに尋ねる。
「ああ。ちょっと考え事があってな。正直、悩んでるんだ」
羽矢と一輝の目が合う。羽矢の瞳は揺れており、困った顔ような顔を浮かべる。実に羽矢らしくなかった。
「どうしたの?何か困ったことがあるなら教えて。相談に乗るよ」
莉菜は心配そうに視線を向ける。
同様に、一輝も気に掛ける素振りを見せる。
「・・・」
羽矢は俯きながらしばらく黙っていた。だが、意を決したように口を開いた。
「私の趣味は2人共知ってるな?インターネットでライトノベル系の小説を読むことだ。他にもライトノベルの書籍も読むな」
羽矢は重たそうに口を動かす。
「うん。十分すぎるくらい知ってる」
一輝は大きく首肯する。
「その趣味はオタク的な趣味なのだろうか?多くの人から引かれる趣味なのだろうか?」
羽矢は神妙な面持ちで疑問を呈する。その際、羽矢の顔は悲しそうだった。さすがの彼女も多くの生徒達に引かれたような態度をされ、心に傷を負ったのだろう。
羽矢の問いに、一輝と莉菜はすぐに答えを提示できなかった。
「すまない。難しいことを聞いてしまったな。忘れてくれ」
羽矢はなぜか謝り、話を終わらせようと試みる。
数分間ほど、静寂な空気が3人の間に生まれた。3人とも居心地が悪そうに1言もしゃべらなかった。
「俺は増本にどんな出来事があったかわからない。でも、おそらく何かしらがきっかけで悩んでいると思う」
一輝は慎重に言葉を選び、重い静寂を破った。そこまで結構な勇気を必要とした。
そのおかげで、羽矢と莉菜の視線が一輝に一点集中する。
「でも間違いなくこれだけは断言できる」
一輝は意図的に間を作る。
羽矢と莉菜は次の言葉をひたすら待つ。
「人の趣味を引いたり、もしくは悪く言ったりするのは問題だということはね」
一輝の言葉には重みがあり、説得力があった。
「どんなものを趣味にしようとそれは個人の自由だと思う。まあ、犯罪に繋がる趣味は論外だけど」
一輝は感じたことをそのまま言語化しただけだった、決して深く考えたわけではない。そんな凄技、彼にはできないのだ。
そこで、羽矢は目を大きく見開いた。どうやら、一輝の言葉に反応したようだ。
「私もそう思う!」
莉菜は一輝の言葉に同意を示す。
「かずくん、珍しくいいこと言うね!」
莉菜は嬉しそうに一輝を褒める。まるで自分のことのように嬉しそうだった。
羽矢がはっとしたのには理由があった。彼女は先ほどの一輝の言葉を過去に聞いた経験があった。
一輝も羽矢もまだ幼かった何年か前に。




