80話 彼女の怒り
「それで話とはなんだ?」
羽矢は平然とした態度で率直な疑問を尋ねる。
「あたしの名前は稲田愛羅。この学校の2年生で小川秀明の彼氏」
ギャルは羽矢の問いを無視し、勝手に自己紹介を始めた。
「はぁ・・・」
羽矢は予想外の対応に呆気にとられる。
「もしかして小川秀明を知らないの?」
愛羅は怪訝そうに目を細める。そのせいで、彼女の額に皺が寄る。
「ああ。存じ上げないな」
羽矢は迷った素振りせず肯定する。
「ちっ。まじ」
愛羅は不機嫌そうに舌打ちした。舌の鳴った音は当然のごとく羽矢へ届いた。
「わからないようなら教えてやるよ」
愛羅は勢いよく羽矢を睨む。
羽矢はその鋭い目に反応し、ぴくっと肩を揺らす。
「昨日、あんたに告白した男子いなかった?万人受けするイケメンな顔立ちをした」
「・・・それはいたが。・・まさか」
羽矢は告白の場面を回顧し、はっとする。
「どうやら気づいた?そう。昨日あんたに告白したイケメン男子が小川秀明。私の彼氏」
愛羅はだるそうに髪をいじりながら言う。
「そ、そうだったのか・・・」
羽矢は驚きを隠せない。彼女は今まで星の数ほど告白を受けた。だが、彼女持ち男子からの告白経験はなかった。
「本当に最低!告白された男子の名前を知らない上、他人の彼氏の心も奪うなんて!」
愛羅は怒りをぶつけるように語気を強める。幸運にも、生徒や教員は廊下にいない。
「いや、待ってくれ。私は———」
羽矢は弁解しようとする。
「どうせ秀明の心を奪うような汚い手を使ったんでしょ」
愛羅は軽蔑の目線を送る。汚物を見るように。
「そんなことしていない。これは本当だ」
羽矢は必死になって否定する。
「私は絶対にあなたの言うことなんて信じない」
愛羅は一切聞く耳を持たない。
「それと、私は今日からあんたがオタクの趣味を持つ事実を広めるから。それであんたのイメージを崩してやるから」
愛羅はにた〜っと意地悪な笑みを露見する。
「そういうことだから。話は済んだからさっさと教室に戻りな」
愛羅は命令口調で言い放ち、その場を立ち去る。彼女は後ろなど気にせず、ひたすら歩を進める。
「・・・」
羽矢は何も言えずに黙って愛羅の背中を見つめていた。




