73話 仕事終了後
1時間ほどしてカフェでの仕事は終了した。
一輝は他のクラスメイトと交代すると、即座にスマートフォンを使ってSNSで莉菜にメッセージを送った。そうするように言われたため忘れずにしっかりと実行した。
『今、終わった。これからどうすればいい?』
こんな平坦な文章を打ち込み、送信した。画面上にその内容のメッセージが表示される。
一輝の予想の3倍以上の速さで既読がつく。速効性に一輝は多少驚いた。
『わかった!!連絡してくれてありがとう!!それと、集合場所は昇降口にしよ!簡単に集まれる思うから』
既読後、莉菜から高速でメッセージの返信があった。
「はやっ」
一輝は無意識に率直な感想を漏らし、『了解!すぐに向かう』っとメッセージを返す。それからもう連絡の必要性はないと勝手に断定し、スマートフォンを制服のポケットに手慣れた手付きで仕舞う。
階段を降りて、昇降口へと向かう。階段を何10段か降りて、廊下を進むとあっという間に辿り着いた。
一輝は校舎内に身を置いていたためか、羽矢と莉菜よりも早く着いてしまったようだ。
「まぁ、こんなときもあるだろ。ちょっとぼぉっとしながら2人を待つかな・・」
一輝は周囲に誰もいないことを確認してから少し大袈裟に独り言を口にした。結構、大きな声だったため、周りに1人がいたら、おそらく目を向けられていただろう。
「あっ!かずくん!!先に着いてたんだ!ごめん!もしかして待った?」
数分ほどして、莉菜がひらひらと手を振りながら、一輝に歩み寄る。羽矢は莉菜の後を追うようにゆっくり進む。
「ちょっとしか待ってないよ。だから、気にしないで!」
一輝は莉菜にひらひらと手を振る。手を振られたら振り返した。莉菜は一輝に反応してもらえて、嬉しそうに薄く笑みをこぼす。
「よかった。それで、これからどこに行く?」
「う〜ん。何かないかな。増本は文化祭でそういうのがあるか知ってるか?」
一輝は頭の良い羽矢なら何か知っていると思い、縋るように質問を投げ掛けた。
「う〜ん。出店やダンスの出し物は体験したからな。次は様々な文化部が提供している体験コーナーとかどうだ?」
羽矢は少し考える素振りを作り、提案をする。
「あっ!それ良いね!!私、茶道部の体験とか興味あったんだよね!」
莉菜が食い付く。どうやら、興味のある分野のようだ。
「それなら、茶道部の体験コーナーに行くか。増本もそれでいいか?」
一輝は念のため羽矢に確認を取る。
「ああ。問題ない。逆に、そういう朝元は大丈夫なのか?茶道に興味があるのか?」
「まぁ、興味があるとは言えないが。いいんだよ。俺は行きたいところなんてないんだから」
一輝は本当の気持ちを口にする。実際に文化祭で行きたいところなどなかった。一緒に行動する羽矢と莉菜が楽しんでくれる。これが一輝の望みだった。
「いいの?かずくんが嫌だったら、私全然行かなくてもいいよ」
莉菜はこちらを窺うような顔を示す。一輝が行きたくないと言えば、すぐに了承する口ぶりだった。
「いいんだよ。莉菜や増本が行きたいところに行ければ。俺はそれでいいんだ」
一輝は「そろそろ行かないか?」っと強引に話を区切る。このままでは永遠に続くと推測できたためだ。
「場所はどこなんだ?」
「あ、ちょっと待ってね・・・」
莉菜はポケットから文化祭のパンフレットを取り出し、目を通す。瞳動かしながら、茶道部の体験ができる場所を探す。
「あ!学年の2大巨頭の増本さんと与田さんの姿が!!それに、ううん?男子生徒もいるぞ!は!?もしかして、お前があの朝元か!」
突如、大きな男性の声がした。一輝は聞き覚えのない声色だった。即座に反応し、音源に視線を走らせる。
そこには丸坊主の男の姿があった。制服を着ているため、おそらく西城高校の男子生徒だろう。
「おい!お前があの朝元か?」
男子生徒は鋭い目つきで問い掛ける。
「う、うん。そうだけど・・・」
一輝は喧嘩腰の感じにいささか恐怖を覚え、わずかに後ずさる。反射的に返答したが、恐怖のせいで歯切れの悪いものにもなってしまった。
「なにこの人?かずくんの知り合い?」
莉菜はパンフレットから目を離し、怪訝な目をしながら一輝に聞いた。
「いや、全然。全く知らない人だよ」
一輝は突然の出来事に動揺を隠せない。なぜ、目の前の男子生徒が自身に喧嘩腰なのか理解ができなかった。
「俺はこの学校の野球部に所属している勝 真一っていうもんだ!」
勝は勢いのある口調で自己紹介を始める。
「朝元、お前は結構有名なんだよ。頻繁に2大巨頭の増本さんと与田さんと一緒にいることが原因でな!それで、文化祭という青春を象徴する日にも学園のトップ美少女2人と一緒に行動なんて。羨ましい上、憎い」
勝は力強く両拳を握り、歯を食い縛る。
「おい、何か色々と変なことを言ってるぞ。朝元、本当に面識はないのか?」
羽矢は変なものを見るような目をしている。
「あぁ。本当にないな。1回も会話すらしたことない。実際、名前を聞いたけど、初めて知ったし」
一輝は脳が完全に稼働していない状態ながらも、羽矢の問い掛けには答える。
「おい!俺の前で親しげに話すなよ!決めたぜ!俺は絶対に体育祭でお前より活躍する!!借り物競走、お前も出場するんだろ?ぜってぇ負けねえからな!!リア充野郎に負けてたまるか!!」
「は、はぁ・・・。それはご自由にどうぞ」
一輝は謎の対抗心に呆れ顔を露わにする。なぜ、対抗心を燃やすのか理解ができなかったからだ。
「とにかく、覚えとけよ!絶対に負かせて恥をかかせてやるからな!」
勝はそう宣言すると、羽矢と莉菜の顔をそれぞれ一瞥してデレる。すぐに顔を左右に振って、その表情を消すと、ダッシュでその場を去った。
「なにを覚えとけかよくわからないけど・」
一輝は意味がわからなかった点を復唱するよようにつぶやく。
「それにしても、面倒くさいことになりそうだ。ははっ・・」
一輝は疲れたように短い笑いを漏らす。衝撃的な出来事に結構な疲労を覚えた。
「これは面白いのか不幸なのかはわからないが、面倒くさいのは確かだよな・・・」
羽矢はうんうんっと同調するように頷いた。




