71話 カフェ
出店で自分達が欲しい食べ物を買った後、一輝達は彼のクラスが影響するカフェへと向かう。理由は羽矢と莉菜が行きたいと言い出したからだ。一輝は嫌な顔をしたが、2人には関係なかった。
一輝達は校舎の中に入り、2年6組の教室を目的地として移動する。2年6組が一輝のクラスの教室だ。
「楽しみだな。朝元のクラスがどんなカフェを提供しているか。結構、準備で忙しかったんだろう?」
先に階段を上がる羽矢が後ろを見ながら、興味深そうに一輝に問い掛ける。
「どうだろうな。他のクラスの準備がどのくらい大変だったかわからないから、何とも言えない。ただ、頑張ったことは頑張ったぞ」
一輝は階段を登りながら、疑問に答える。隣にはほぼ同じスピードで階段を上がる莉菜の姿がある。
「そうなんだ!私も楽しみだな~。かずくんが考えたメニューとかはないの?」
「う~ん。どうだったかな。多分、ないと思う・・・」
一輝は少し考える素振りを示すなり、苦笑いを浮かべる。記憶を辿る限り、自分が提案して採用されたメニューはなかった。
「う~ん。それは残念。かずくんが考えたメニューを味わってみたかったのに・・・」
「はははっ。確かにそれは私も同感だな。朝元がどんなメニューを提案したか、少なからず興味が湧くな!」
「なんだよ!その言い草は!何か引っかかるな」
一輝は先に進む羽矢に不満を口にする。彼女の言葉と言い方が気に食わなかった。
「別にバカにしているわけではないぞ。ただ単に朝本のアイディアというものが気になっただけだ。どんなものをカフェに出そうとしたかがな」
羽矢は一輝の内心など気にした素振りも見せず、悠々と階段を上がる。一輝と莉菜も自身のペースで階段を登る。
「確か、この階だったよな?」
「ああっ。そうだ」
3人は2年6組が設けられたフロアに到着する。そのままフロアを進むと、2年6組の教室があった。
運が良いことに、教室の前には列ができていなかった。そのため、あまり待ち時間は生まれないことが予測できる。
一輝達は開放された戸から教室内に入室した。
「「いらっしゃいませ~!」」
2人の女子生徒が快活な声で挨拶をする。もちろん、スマイルも忘れずに。
「「え!?」」
マニュアルの挨拶をした後、2人の女子生徒は驚きの声を漏らす。一輝と一緒にいる人物に驚いたのだろう。
「おいおい。増本さんと与田さんが来たぞ!!」
「驚いたよ。でも、ちょっと考えればわかることだよな!だって、朝元がいるんだもんな」
「うん。そうだね。その論理は正しいと思う!」
生徒達(一輝のクラスメイト)が次々と近くの同級生と会話を始める。相変わらずの反応だった。羽矢と莉菜は何度もこの教室を訪れている。だが、未だに彼女達が自身の教室に来る現実が信じられないのか。それとも、文化祭の際も登場したのが驚いたのか、わからないが、生徒達は有名人が来たかのような反応を示す。ちなみに、カフェだからといって、生徒達はメイド服など着ていない。皆、制服だ。予算の都合上、メイド服は買えなかったのだ。
「あの。俺達はどこに座ればいいのかな?」
一輝は未だに席を案内してくれないクラスメイトの女子にそう聞く。
「あぁっ。ごめんなさい。空いている席に案内しますね!」
女子生徒の1人は見事な切り返しとばかりに、張り付いた作り笑いを形成し、一輝達を席に案内する。カフェには何人かの客があり、いくつかの席は埋まっていた。
「それと、これはメニューです。ごゆっくりお過ごしくださいませ」
画用紙で作られたメニューが手渡された。メニューの品は手書きで書かれており、かわいいキャラクターも付与して記載されていた。
「う~ん。俺はカプチーノかな。増本と莉菜はどうする?」
一輝は早々に注文の品を決定するなり、増本にメニューを渡した。
羽矢はちらっとメニューを一瞥する。それから、メニューをテーブルに伏せる。
「私はもう決まった。莉菜はどうだ?」
羽矢はメニューを手に取り、莉菜に手渡そうとする。
「私も決まったから、大丈夫だよ」
莉菜は薄く微笑む。
「そうか。早いな・・・」
羽矢と莉菜はお互いに視線を合わせ、こくんっと頷き合う。
「え、莉菜ってメニュー見てないよな?本当に大丈夫なの?」
一輝は疑うような目で莉菜に視線をやる。
「大丈夫だよ。安心して」
「そ、そうか。わかった。すいませんー」
一輝は怪訝に思いながらも、注文するためにクラスメイトに声を掛ける。その結果、1人の女子生徒が席に赴いた。学級委員の山田だった。
「お待たせしました!注文はいかがしますか?」
山田はクラスメイトの一輝の来客にも関わらず、丁寧な言葉で接客をする。
「俺はカプチーノでお願いします。後は、増本と莉菜はどうするんだ?」
一輝は彼女達の注文する品を聞いていないため、そう言うしかなかった。注文は彼女達に口頭でしてもらうしかない。
「すいません。このメニューの中でかずくんが意見を言って取り入れられた品とかってありますか?」
莉菜がメニューを掲げながら、店員である山田に尋ねた。
「私もそれが気になるな。もし存在するなら、教えてくれるかな?」
羽矢も便乗する。
「お、おい。何言ってるんだ!それに、さっきも教えただろ。そんなものはないって」
一輝は動揺した表情を浮かべつつも、抵抗するように断言する。
「はい。実はあるんですよ。内のクラスの朝元君の言葉がきっかけで誕生したメニューが・・・」
山田はふふんっと意味深な笑みを一輝に一瞬だけ向け、莉菜の持つメニューに目を通す。
「あ、ありました。これです!!このココアは朝元君の意見から生まれたものなんですよ。確か、学生にも馴染みあるメニューも欲しいんじゃないかって」
山田はメニューに書かれたココアの部分を指差しながら、力説する。その言葉には熱が帯びていた。
「あ、そうなですね!確かに、メニューにはカプチーノ、キリマンジャロ、ブルーマウンテン、モカ。色々ありますけど、どれも私には馴染みがないものばかりです」
「私も。聞いたことしかないな。朝元はこの中のものを全部飲んだことがあるのか?」
羽矢は胸の前で両腕をクロスさせ、「どうなんだ?」っといった顔を形成する。
「お、俺は一応、全部あるぞ。好きなアニメがカフェを舞台とした作品で、その中でカプチーノやキリマンジャロが出てきたんだ。そこで、興味を持った何度か飲んだことがある」
「ほうほう。そうなんだ。それは知らなかった。あ、私はココアで頼むよ。なんたって、朝本の言葉がきっかけで生まれたそうだからな」
羽矢はいじわるな笑みを作る。あからさまに一輝を挑発するように。
「私も、ココアでお願いします!かずくんの言葉がきっかけで生まれた貴重なメニューだからね。頼まなきゃ!」
莉菜はメニューのココアと書かれた部分を指し、注文を完了させる。
「はい。わかりました!カプチーノとココア2つですね!承りました!!」
山田は頼まれたメニューを復唱すると、作業場(飲み物が作られる場所)へと戻った。




