70話 出店
「おっ。出店が出てるぞ!!」
羽矢がご機嫌な口調で指を差した。彼女の指の先には複数の出店が並んでいた。
「そうだな。おそらく、3年生やPTAの保護者が提供しているやつだろう」
一輝は出店らを視認し、羽矢に説明する。彼の言う通り、西城高校の制服を着た生徒達がいる出店もあれば、明らかに社会人の女性が働く出店もあった。数的には生徒達が働く出店の方が多かった。3年生はどこのクラスも出店を出さなければならないため、当然だろう。
「美味しそうな匂いがするぞ。行って何かを買ってみないか!」
羽矢は振り返り、一輝と莉菜を視界に捕まえる。
「ああ。俺も構わないぞ。俺も何か食べたかったところだ。莉菜はどうだ?」
「うん。私も同じ気持ちだった」
莉菜は問い掛けに答え、頷く。
「よし!じゃあ、私は先にいち早く出店に向かうぞ!!」
羽矢は視線を外し、早歩きで多くの生徒が立ち並ぶ出店に向けて進む。
「行っちゃったな・・・」
「うん。相変わらず行動が速いね・・・」
一輝と莉菜は羽矢の背中を見つめながら、それぞれの感想を口にする。
一方、羽矢は彼らの心情など関係なしに、どんどん前に進んでいる。
「あの、莉菜。最近は何ていうかごめんね。文化祭の準備とはいえ、一緒に帰れなくて。もしかしたら、寂しい思いをさせてしまったかもしれない・・・」
一輝は莉菜と決して目を合わさず、歯切れの悪い口調で謝罪を述べる。明らかに、ぎこちの悪い謝罪だった。素直ではないのかな、それとも恥ずかしさからか、微妙な感じがする。
「あっ、かずくん。謝らなくてもいいよ。しょうがないことだったんだから。それと、私こそごめん。さっきは不機嫌になっちゃって。かずくんと一緒に帰れなくて、寂しくてストレスが溜まってたんだと思う。それを、表に出すなんて子供っぽいことして」
莉菜はあたふたと両手をばたつかせた後、居心地の悪そうな顔をした。おそらく、本人も思わず取ってしまった行動だったのだろう。時間が経ち、心が落ち着き、自身の行動を反省しているのだろう。
「いや、俺に問題があったんだよ。たまには、一緒に帰ったり、他にもできることはあったはずなんだよ」
一輝は俯きながら、反省の言葉を述べる。沈んでいるような表情だった。
「でも、過ぎ去ったことはしょうがないと思うんだ。だから、今度から莉菜を寂しい気持ちにさせないように努めるよ。それと、今日から一緒に帰ろうな!」
一輝はようやく莉菜に視線を移動させ、安心させるように笑顔を作った。これは彼の配慮だった。
「うん!!」
莉菜は嬉しそうに首肯した。満面の笑顔を浮かべながら。
「それと、さっきの言葉覚えといてよ!言質取ったからね!」
莉菜は揶揄うように一輝の肘を小突く。
「げ、あんな言葉を言質に取るのかよ・・・」
一輝はぎょっとする。想定外の幼馴染の言葉だった。
「それと、そろそろ出店で増本が何かを購入しそうだな」
一輝は出店の方を指差す。彼の言う通り、羽矢は列の前列まで来ていた。
「あ、本当だね。私達も早く向かってどこかの出店に並んだ方が良さそうだね!でないと、増本さんを待たせてしまう羽目になりそうだね」
「だな!」
一輝と莉菜は見つめ合い、にこっと笑い合うと、同時に駆け足で出店が設置された場所へと走る。楽しそうに、人ごみの多い場所を目的地として。




