69話 文化祭
本日、文化祭が開始した。
朝から学校はお祭り騒ぎであり、一輝のクラスも同様であった。皆、浮き足だっていた。一輝も昨年に文化祭を体験したが、今年も不思議とわくわくしていた。学生の性なのだろうか。お祭りごとは自然と気分が高揚する。
体育館には全校生徒が集まり、大々的に開会式が行われた。開会式では生徒会長の煽りから始まり、しっかり考えられた生徒会の劇が行われた。その後、校長先生の話が行われ、本格的に文化祭が始まった。生徒達の声がいくつも重なり、アーティストのライブのような喧騒が体育館に響き渡る。
皆が我が我がと体育館を後にする。全員が急いで文化祭を楽しむ姿勢を披露する。
一方、一輝はゆっくりと床から立ち上がり、黙って多くの生徒達が動く光景を見つめていた。さすがに、あの人ごみに入っていこうと思わない。落ち着いてから行動し、楽に体育館を抜けるのが一輝の魂胆だ。
「あっ!かずくん!!」
莉菜が無口で佇む一輝に声を掛ける。彼女の声はご機嫌だった。幼馴染で大好きな一輝を発見できたことが嬉しかったのだろうか。
「おう!莉菜か!!どうしたんだ?友達と一緒に行動しないのか?」
一輝はあいさつ代わりに軽く手を掲げ、率直な疑問を口にする。莉菜は誰とも一緒におらず、単独だったためだ。
「うん。何人かに誘われたけど断ったの。今日はかずくんと文化祭を楽しむって決めてたから」
莉菜は「えへへっ」っと頬を緩め、だらしない笑みを浮かべる。その子供っぽい仕草に一輝はどきっとしつつ、かわいいとも思ってしまう。
「そうか。じゃあ、莉菜も人の動きが落ち着いたら一緒に出るか?」
「うん!」
莉菜は元気よく頭を縦に振った。その笑顔は非常にまぶしい。こんな表情は一輝以外見られないだろう。
「それにしても、最近、文化祭の準備でかずくんと一緒にいられる時間が不足して寂しかったんだからね」
莉菜は不満げに頬を膨らませる。明らかに、心は穏やかな状態ではなさそうだ。
「それは本当にごめんね。色々と忙しかったんだよ」
一輝は両手を合わせて謝った。実は、文化祭の準備が忙しい頃、何度も莉菜と羽矢から一緒に帰ろうと誘われていた。しかし、放課後に文化祭の準備という仕事があったため、すべて断っていた。
仕方がないのが、一輝には少なからず申し訳なさがあった。
「確かに、文化祭の準備は大事かもしれないけど。何日も断られた幼馴染の身にもなってよね!」
莉菜のはぷいっとそっぽを向く。そのせいで、一輝から視線が外れる。
(どうしよう。これは俺にも非があるしな)
一輝は困った表情を浮かべながら、頬を優しく掻く。この状況を打開する方法を考える。
「おっ!朝元!!それと莉菜も!!ここにいたんだな!!」
一輝が困っている最中、羽矢の声が聞こえた。彼女はすたすたと一輝と莉菜の元に歩を進める。
「あぁ、増本か。まさか、増本も俺と一緒で多くの生徒達とは遅れて体育館を出る予定か?」
一輝は視線を羽矢に向ける。莉菜もちらっと羽矢に目を向ける。
「ああ。面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁だからな。それに生徒達を見ていると、窮屈で仕方なさそうだ。あれはかなりきつそうだぞ」
羽矢は分析した内容を述べる。実に、丁寧で精度が高く、しっかりとされたものだった。実際に、生徒達は楽しそうでありつつ、窮屈そうに顔をしかめていた。
「おっと、そろそろ人も減ってきたようだな」
「おっ。本当だ!そろそろタイミング的にはいいんじゃないか?」
一輝は羽矢と莉菜を視界に捉える。
「そうかもしれないけど・・・。かずくん、何かごまかそうとしてない?」
莉菜が一輝にジト目を向ける。一輝は鋭い指摘に内心でぎくっとする。
「少し違和感を感じていたが、どうしたんだ?莉菜が不満そうだぞ」
羽矢が不思議そうに一輝と莉菜に交互に目をやる。ちらちらと。
「それがだな。最近、文化祭の準備で一緒に帰れなかっただろ?だから、莉菜がそれを思い出して怒っているんだ」
「怒ってないもん!不満なだけだもん!」
莉菜は再び、ぷいっとしてしまう。
「あはは!莉菜も子供っぽいな!!それであまり良い空気じゃなかったんだな」
羽矢は笑い声を上げた後、顎に手を添え、頭を何度か縦に動かす。なるほどなるほど、というように。
「子供っぽいって。私にとってはすごい大事なことなんだから」
莉菜は珍しく、豊満な胸の前で腕を組み、不機嫌さを露にする。
「いや、悪い悪い。だが、莉菜の気持ちもわかるぞ。確かに、あれだけ何日も帰らなければ不満を溜まるよな」
羽矢は同調を示す。
「なんだよ。何で増本も莉菜の気持ちがわかるんだよ?」
一輝は納得のいかない顔で問い掛ける。
「さあな。それは自分で考えるんだな」
羽矢は軽く受け流す。
「おっ。出口にもう数人しかいないぞ。そろそろいかないか!」
羽矢は出口を指差し、前進する。
「お、おい!なんだよそれ!!もうちょっとわかりやすく説明しろよ!!」
一輝は羽矢の後を追い掛ける。先ほどの言葉の真意を吐かせるために。
「・・・やっぱり、増本さんも同じ気持ちだったんだ。かずくんは相変わらず理解していないみたいだけど・・・」
莉菜はぼそっとつぶやくと、2人の後を追った。どうやら、莉菜には容易に先ほどの羽矢の言葉に隠された意味が理解できたようだ。
一輝、羽矢、莉菜はほぼ同時に、生徒も教員も残っていない体育館を後にした。これから、文化祭を満喫するために。




