54話 風邪
「ごほごほっ」
学校がある早朝。
一輝は自室のベッドで寝転がりながら、咳き込む。
「おにぃ。大丈夫!?はい!体温計!!」
美月が慌てた様子で一輝の元に駆け寄り、体温計を渡す。
「・・ありがとう。ゴホゴホッ」
一輝は口元を手で覆い、激しく咳き込んだ後、身体の脇あたりに体温計を差し込む。
「ちょっと熱があるかどうかを確認させて」
美月は心配そうな面持ちを見せながら、一輝の額に手を当てる。
一輝の額に美月の体温がわずかに伝わる。
「うわっ。熱い。おにぃ。これは絶対に熱があるよ」
美月は大袈裟すぎるほどのリアクションを示す。それほど一輝のことが心配なのだろう。
『ピピッ。ピピッ』
数分後、体温計の音が静かに鳴り響く。
一輝はだるさに襲われながらも、身体の脇の部分から体温計を取り出す。
「38.5分・・・」
一輝は弱々しい声で呟いた。しんどさで顔が歪んでいる。
「やっぱり・・。おにぃ。今日は学校休む必要があるね。それと私も休む連絡をしないと」
美月はあせあせと一輝の部屋から退出しようと試みる。
「それはいいよ。美月まで学校を休む必要はないよ」
一輝は視界がぼやけた状態ながらも、ベッドから起き上がる。
「それはダメだよ。風邪ひいたおにぃを1人にはできない。それに、もし悪化したときに看病できる人がいなくなる」
美月は真剣な表情ながらも、瞳を潤ませる。もしもの出来事を想像し、不安に襲われているのだろう。
「・・・わかった。それと、俺のためにありがとう・・・」
一輝は美月の表情から胸中を推し量り、それを汲み取ってお礼を述べた。
「うん。いいよ。だって家族で兄妹なんだから」
美月は優しく笑みを作った。苦しそうな一輝を安心させるように。
「じゃあ。これから学校に連絡してくるね」
美月はそっと一輝をベッドに寝かせた後、彼の頭を優しく触った。
ふわっとした感触が一輝の頭に生じる。一輝の胸中に安心感が生まれる。
数分後、美月は自室に戻ってきた。
「今日、私はずっとここにいるからね」
美月は教科書やノート、問題集、筆箱を手に持っている。
「あぁ。悪いな・・」
一輝ははぁはぁと息を荒らしながらも応答する。
「飲み物とかいる?」
「今はいいかな」
「わかった。もし、必要なときは声を掛けてね」
美月は一輝の勉強机に座る。
「おにぃ。勉強机借りるよ」
美月は寝転がる一輝にちらっと目を向ける。まるで返事を必要としてないかのように。
「あぁ。いいよ」
「ごめんね。しんどいのにわざわざ返事させて」
美月は申し訳なさそうな顔を作った。
それから、勉強机に教科書と問題集を開く。
筆箱からシャープペンシルを取り出して、勉強に取り掛かる。
部屋内には一輝の咳と文字の書く音などが生まれる。
⭐️⭐️⭐️
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