51話 次の日
次の日。通常通り学校は放課後を迎える。
「ねぇねぇ!朝元さん!!ちょっといい?」
渡辺がいつものように美月の席に歩み寄る。
美月は渡辺の顔を視認すると、ぴくっとわかりやすく身体を反応させる。認識により恐怖や不安を感じてしまったのだろう。
「ちょっと!」
美月の友人の1人が怒りの口調で割って入る。
「うん?どうしたんだい?」
渡辺は薄い笑みを浮かべて美月の友人に対応する。
「どうした?じゃない。あなた、しつこすぎでしょ!何回断られてると思ってんのよ」
「そうよ!美月がやんわりと断るからいいことに。何度も遊びに誘って!いい加減に諦めなさいよ!!」
もう1人の友人も割って入る。この2人は前日に美月を心配してくれた友人達である。
友人達は威嚇するように渡辺を睨みつける。
「・・ふぅ。これは分が悪いな」
渡辺は誰にも聞こえないほどの小さな声で呟く。
「ごめんね。もしかして、朝元さんにとって迷惑だったの?」
渡辺は友人達をそっちのけで美月に疑問を投げ掛けた。
「・・・」
美月は口を噤んでぎこちなく首肯した。
「そっか・・・。それはわからなかったな。ごめんね。今後、金輪際誘わないから」
渡辺は申し訳なさそうな顔で謝ると、ゆっくりと教室から退出した。
「本当に!なんであれだけ断られて迷惑していることも理解してないのよ!」
友人の1人が腰に手を当てながら、盛大に不満を口にする。
「本当にそうだよ!言葉に出さなくても普通に勘付かないなんて。信じられない!」
もう1人の友人も同調する。
「「あ、大丈夫だった?」」
2人は美月の机に手を突いて、心配そうな表情で覗き込むように話しかけた。
「あ、ありがとう。・・2人共・・・。助かったよ」
美月は緊張して力の入った肩をゆっくり下ろし、安心したように少し頬を緩めた。
「いいんだよ。美月は優しすぎるんのよ。もし、また何か困った事柄があったら教えて。絶対に助けるから」
「そうだよ!我慢したらダメだから!」
2人の友人から良心の帯びた言葉を受ける美月だった。両者共に安心させるような優しい声色だった。
その後、美月はゆっくりと帰りの支度を済ませて帰路に着いた。
現在、住宅地に面した道を1人で歩く。
美月は友人2人の行動のおかげで昨日よりも楽な状態で帰ることができている。恐怖や不安もかなり減少している面持ちだ。
「よし!今日もおにぃに甘えよっと!!」
美月はくすっと思わず笑みをこぼした。自身を苛む何か巨大なものが取り除かれた感覚でも味わっているかのような。
「ねぇ!朝元さん!!いきなりだけど、今からどこか行かない?」
突如、後ろから聞き覚えのある声が発生し、何者かによって美月の右手が握られた。手は男性特有のごつごつした感じだった。
「えっ!?あなたは・・・」
美月は反射的に男の手を払い退け、すぐに身を守るために少し距離を取ってから振り返る。
「なんだ〜。冷たいなー。そんなに拒否反応示されちゃーさすがに落ち込んじゃうからさ」
渡辺が払い退けられた手をさすりながら、へらっと笑顔を作る。
「どうして・・・。さっきはもう誘わないって・・・」
美月は肩と唇を小刻みに震わせながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「あぁ。あれは嘘だよ。あの場面で嘘でも言っとかないとあの女子2人が黙ってないでしょ。だから面倒な事態を避けるために敢えて嘘をついたんだよ」
渡辺は悪びれた素振りを微塵も見せず、へらっとした顔で答えた。
「諦めきれないよ。朝元さん、君みたいな美少女で人気のある人は是非手に入れたいんだ!」
「キャッ!?」
美月は渡辺によって近くの電柱に無理やり押し付けられる。
「ねぇ!いいよね?さすがに何度も何度も断られ続けると無理やり手を出したくもなるんだよ!」
渡辺は口角を上げて、不気味な笑みを浮かべながら顎クイする。
「ッ!?」
美月はビクッと肩を跳ね上がらせる。恐怖で身体が思うように動かない。それに恐怖からか、美月の目には涙の粒が溜まる。
「ちょっとそこのあなた!何やってんのよ!!」
渡辺の後方からきつい声色が生まれる。
渡辺は美月の顎から手を解放せず、首だけ動かして後ろを確認する。渡辺が前に立ち塞がった形になっているため、美月に声の主は認識できない。
「すいません。あなたは誰ですか?」
渡辺はちらっと美月を一瞥してから、安直な疑問を口にする。
そう。渡辺は目の前の人物を知らなかった。それもそのはず。なぜなら、きつい声色の主は制服を身に付けた松本なのだから。
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