46話 同行
一輝は松本と一緒に彼女の自宅へと向かっている。
「どうしてついてくるのよ。遠慮したはずよ」
松本は隣で歩く一輝の顔をちらりと見て、わずかに不機嫌そうに言う。
「それは・・・。松本さんが1人で帰る途中で、万が一にも死のうとしたときに止める必要があるからね」
「そんなことしないわよ! っていうか何その発想!? ちょっと怖くない?」
「いや。油断ならない。もしかしたらがあるかもしれないからね」
「アンタの中の私ってどんだけ危なっかしいのよ!」
松本は唇を尖らせる。
「いや。危ないでしょ。自分から車に轢かれにいくんだから」
一輝は冷静に淡々と返答する。
「そ、それは。否定できない・・・」
松本は負けを認めるように視線を下方に向けた。一輝の言い分は最もだった。
それから2人は無言で歩を進める。
「1つ聞いていいかしら」
松本が静寂な空気感を破る。
一輝は無言で首肯する。
「どうして車に轢かれて死のうとしていた私を助けたの?嘘告白をしてあなたの心をひどく傷つけた私を。どうしてわざわざ助けたの。その必要はないはずなのに」
松本は真剣な表情で一輝に疑問を投げ掛けた。この疑問は当然だろう。自身を大きく傷つけた張本人を救うなど普通ありえない。いくら、松本が車に轢かれそうになったとはいえだ。
だが、一輝は行動を起こして、松本を助けた。だから訊いたのだ。なぜなのかと。
「確かに俺の松本さんに対するイメージは良くないよ。嘘告白をされて得た痛みも未だに忘れてない」
数秒の間を置いて、一輝は重い口を開いた。そのせいで思い出したくもない苦い記憶が彼の頭を駆け巡る。
「でも身体が動いたんだ。理由はわからない。だから、松本さんの求めている答えは示せそうにない」
「・・・そう」
松本は無表情でそれだけ呟く。
「ただこれだけは言える。俺は松本さんに死んで欲しくなかったんだよ。だから、止めた」
一輝は自分が感じたことをそのまま口に出した。それを聞いた松本は目を見開いて驚いたような表情になる。
「あなたって変わってるわね」
「え!?そんなことないと思うけど」
「変わってるわよ。でも優しいのね」
松本は一輝を見つめながら、薄く微笑んだ。
「ここ!私の家だから」
松本は足を止めて、目の前の1軒家を指差した。表札には『松本』と書かれている。
「そうなんだ。じゃあもう大丈夫だね。俺はこれで」
一輝は踵を返して、立ち去ろうとする。
「待って」
松本は声で一輝を制止する。
一輝は松本の声に反応して立ち止まり、振り返る。
「今日は本当にありがとう。それと妹さんにもこの気持ちを伝えといて欲しい」
「うん。わかった」
一輝が了承すると、松本は嬉しそうに笑顔を作った。
「それと・・・」
松本は一旦、言葉を区切る。そのせいで間が生まれる。
「あのとき、嘘告白をしてごめんなさい・・・」
松本は頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
「・・・」
一輝は松本の予想外すぎる行動に驚き、口を半開きのままキープしている。
「・・・こんな謝罪だけで許してもらえるとは思えない。でも、これは私の正直な気持ちだから・・」
松本は顔を上げ、申し訳なさそうに口にする。
「これだけは伝えないといけないと思ったから」
松本はわずかに瞳を潤ませる。
「そうか・・」
一輝はぶっきらぼうにそれだけ呟くと、松本の目を覗き込むように見つめた。
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