44話 止める
「目的のものが買えてよかった」
一輝はレジ袋を手に持ちながら、微笑を浮かべて独り言を呟いた。
今日は好きなラノベが発売されるため、一輝は午前10時頃に自宅を出て、地元の近くの本屋に向かった。
そして、今はお目当てのものが手に入り、気分良く帰路に着いているところだった。
(さて、帰ったら読むか)
と、そんなことを考えているときだ。
(あれは・・・)
同じ通りに、生気のない顔で道路の様子を窺う松本の姿があった。松本は横断歩道の近くに佇み、何度か首を左右に移動させる。
まるで、タイミングを図っているような仕草だ。
瞬時に脳が反応したのか。一輝は松本に嘘告白された事実を思い出してしまう。
一輝にとって松本のイメージは最悪だ。松本は片山と協力して嘘告白をし、そのせいで一輝は少なからず心の傷を負ってしまったのだから。
そんな嫌な記憶を想起し、不快な気分を知覚している最中、1台の車が横断歩道に接近する。
松本はそれを視認すると、なにかに解放されてすべてを諦めたような表情を作った。
(まさか・・・)
一輝は嫌な予感を覚え、自身の足を走らせる。不快な気持ちは焦りから消え去り、自然と松本に向けて走っていた。
それから、身を投げるように赤信号の横断歩道に向けてダッシュしようとした松本の右腕を掴み、思いっきり引っ張った。
「やめなよ!!」
松本が驚く様子も確認せず、一輝はそのまま力任せに引き寄せた。そのおかげもあり、松本は車に轢かれずに済んだ。
「ふざけてるのか!!轢かれたら死ぬかもしれないんだぞ!!!」
松本の顔を見ず、怒声を上げる一輝。
そんな彼の腕には、まだ彼女の腕を掴んだ感触が残っている。
「・・・いいのよ。死んだって・・・そのために車に轢かれようとしたんだから・・・」
松本は消え入りそうな声で呟く。
「どういうこと?」
一輝は動揺しながらも、瞬時に言葉を返した。
「言葉の通りよ。私はもう生きてて辛いの。学校生活も以前と打って変わって全く楽しくなくて未来に希望も持てない。それに、好きだった人は私を大切な存在として扱ってくれなかった。だから、私は死ぬつもりだった。なのに、なのに」
松本は激しく身体全体を震わせ、声を徐々に大きくする。
そんな彼女に対して、一輝は何も言えない。ただ、黙って悲しみを帯びた言葉を耳に入れることしかできない。
「どうして止めたのよ!やっと楽になれると思ったのにー!!」
松本は叫ぶように訴え掛けると、両目から大量の涙をこぼした。心に蓄積し、溜まった感情が爆発してしまったようだった。
「・・・」
一輝は数々の衝撃的な言葉の応酬に対して対抗する武器を持っていなかった。その場をより良くするような上手い対応も取れなかった。
一方、松本は涙を服で拭きながら、泣きじゃくっていた。
⭐️⭐️⭐️
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