31話 心配からの絶望
「航平。ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」
学校が終了し、放課後。白雪が航平の顔を窺いながら、席の机に手を置く。
「うん?その話って重要なことか?」
白雪はコクッと首肯した。どうやら相当に重大な話らしい。
「わかった。それで、ここで話をするか。それとも場所を変えるか?」
教室で話すような内容ではないことは白雪の顔から明白だった。場所を変更した方が良さそうだった。
「じゃあ、体育館裏側で話をするか」
航平は帰りの支度を済ませると、気怠そうに席から立ち上がった。
航平と白雪は共に体育館裏へと向かう。
「それで・・・俺に話ってなんだ?」
航平は体育館裏に到着すると、髪を掻きながら、白雪から用件を聞き出そうと試みた。
「あのね。どうして最近、航平は2年生の与田さんにアピールしているの?航平には私という彼女がいるのに!どうして!!」
白雪は少しだけ怒った口調で問い詰めた。白雪の表情は真剣そのものだった。
「ちっ。なんだよ。そんなことかよ」
航平にとってはくだらない問いだったのだろう。だから、面倒臭そうに舌打ちをする。
「な、なんでそんな軽い態度なの。私は本気で心配しているのに!?」
白雪は怒りを表すように両手を強く握り締めていた。
「はぁ〜〜。肉眼で目にして理解できなかったのか?俺が与田莉菜を彼女にするためアピールしているからに決まってるだろ」
航平は呆れた様子で、はっきりと真実を伝える。
「え・・・。航平、何かの冗談だよね。本気で言ってないよね?ねぇ、ねぇ、そうだよね?」
白雪は目を見開き、動揺していた。そして、信じられないといった顔を浮かべている。
「いや、俺は本気だ。俺の目的は与田莉菜を彼女にすることだ。まだ、達成できそうではないが、粘り強くアピールすれば必ず観念して落ちるだろうと確信している」
航平は自信満々な態度で、堂々と宣言をする。
「嘘・・・だよ。絶対に嘘。だって、航平には私がいるもん!私がいれば他の女なんて必要ないはずだもん!」
白雪は声を荒げて、必死に訴えかける。口調も語尾も普段とは異なった形に変貌している。
「お前はそのように思っているかもしれない。しかし、俺は違う。俺にとってお前は何でも指示を素直に聞いてくれる都合の良い女だ」
航平は冷淡な瞳で白雪を視野に入れる。
「なっ・・・何それ。それってどういう意味なの?」
白雪は言葉の意味が理解できないのか、首を傾げる。
「そのままの意味なのだが。要はただ単に、俺はお前のことを便利な道具としてしか見ていなかったというわけだ。これでようやく理解できたかな?」
航平の言葉に一切の迷いはなかった。まるでそれが当たり前だと言わんばかりに。
「それじゃあ、片山君に嘘告白させた際も私を便利な道具として扱っていたの?」
白雪は静かに問い掛ける。もう泣きだしそうだ。
「ああ、そうだ。あのときは便利だったぜぇ。簡単に従ってくれた上、俺に最高の楽しみを提供してくれたんだからな」
航平は口元を大きく歪ませ、愉快そうに大きく舌を露わにさせる。
「うぅっ。酷いよ。本当に酷い。私のことをそんな風に思っていたなんて。こんなにも好きだったのに。こんなにも尽くしてきたのに」
白雪は両目から涙を流し始める。大粒の涙が次々と溢れる。
「ああ、悪かったな。今までありがとう。おかげで楽しかったぞ!俺に貢献してくれて感謝する」
航平は反省の色を一切示さずに、謝罪とお礼の言葉を吐き出した。
白雪は力尽きるように地面に膝を打ち付けた。膝には傷が形成され、血が流れる。
「そろそろいいか?用件も済んだだろ?俺も暇じゃないんでな。今日も与田に誠意を込めたアピールをしないといけないからな。どっちかというと、忙しいんだ」
航平はそう告げると、首を鳴らした後、踵を返す。
「ま、待ってよ。行かないでよ。お願いだから!考え直して!!」
我に帰った白雪が航平の足にしがみつく。必死に引き留めようと懇願する。離れないように腕に力を込める。
「ちっ。うぜえなー!都合の良い道具が調子に乗ってんじゃねぇぞ〜!!」
航平は乱暴に白雪の手を振り解くと、彼女の腹部に強烈な蹴りを入れる。
「ぐふっ。おぇっ・・・」
白雪は嗚咽すると、地面の上に倒れ込む。
「はぁ・・・。全く手間をかけさせやがって。邪魔者は消えてくれよ」
航平はぺっと地面に唾を吐き捨てると、痛みに耐える白雪を心配する素振りも見せずにその場を立ち去った。
航平は体育館裏を離れると、すぐに与田莉菜の元へ向かおうと歩みを進める。ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら。
一方、体育館裏側の近くに松本の存在があった。松本は壁に隠れながら、一部始終を見ていた。
松本はなぜか身体を小刻みに震わせながらスマートフォンを片手に強く握りしめていた。
そのスマートフォンは決して充電が切れているわけではなかった。逆に、充電は多量に残っていた。
「私って、もしかして運がいいかも」
松本も不思議と不敵な笑みを浮かべた。
⭐️⭐️⭐️
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