30話 対峙
「すいません。鳴本先輩っていらっしゃいますか?」
昼休み、一輝は昼食を食べずにある教室に足を踏み入れた。鳴本が所属するクラスへと入室した。
「あぁっ。鳴本ならあそこにいるよ」
3年生の1人が航平を指差して教えてくれた。
「うん?」
航平は一輝の存在に気づく。航平の席の周りには複数の男子生徒がいた。
一輝はすたすたと航平の座る席に足を運ぶ。
「すいません、鳴本先輩。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
一輝は周囲の男子生徒など気にした素振りも示さずに、じっと航平を視界に捕まえた。その上、一輝の口調にはわずかに怒気が籠っている。抑えているつもりだろうが、隠しきれてないのは事実である。
「あぁ。いいぜ。それと、お前らもそんな恐い顔で睨みつけるな。なっ!」
航平は近くの男子生徒の肩に手を置き、やんわりとした笑顔を浮かべて宥める。
「だが・・」
男子生徒の1人が物申したげな顔を示す。
だが、航平はその男子生徒に反応を示さず、教室を後方から退出した。一輝も航平に倣って同じ戸から退出した。
「与田の幼馴染が俺に何の用だ?」
航平は舐めたようにへらっと笑みを作った。その笑みは意図的に作成されたように思えた。
「鳴本先輩って俺のこと知ってたんですね」
一輝は口を半開きにし、目をぱちぱちと瞬かせた。
「当然だろ。お前、中学時代から与田と幼馴染という間柄だけで有名だったのを知らなかったのか?」
航平はおかしそうに口元を押さえた。
一輝は航平のばかにした態度に怒りを覚えた。その反動で両拳が奮えた。
「それで、用はなんだ?」
航平は笑いを消し、疑問を呈した。
「あぁっ。すいません」
一輝は無意識に謝罪の言葉を述べてしまった。
「単刀直入に伝えます。莉菜にアピールするのは金輪際やめてください。莉菜は嫌がってますし、恐怖に怯えています」
一輝は真剣な表情で航平に訴える。莉菜の気持ちを汲んで言葉を紡いだ。
「あん?だから?」
航平はとぼけたような声を漏らした。信じられないといった顔も形成した。
「どういうことですか?」
一輝は航平の言葉の真意を理解できなかった。そのため疑問を呈する。
「あ?意味がわからなかったのか?俺が諦めるわけないだろう。俺は狙った獲物を絶対に逃さない。だから、どんな手段を用いても与田を手に入れる!」
航平は胸の前で右拳を強く握り締めて意思表明をする。廊下を通る生徒が時折、航平に視線を走らせる。
「ということだから。そろそろいいか。俺も暇じゃないんでな!」
航平は踵を返し、教室に目掛けて歩き始める。
「ちょ、ちょっと待ってください!まだ話は終わってないですよ!!」
一輝は周囲の迷惑など考慮せずに大きな声で叫んだ。
しかし、航平は振り返らずに無視して平然とした顔で入室した。
一輝は決して届かない右手を航平の背中に向けて伸ばしていた。
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