29話 恐怖
あれから莉菜は航平から執拗なアピールを受け続けた。
学校内では必ず1人でいるところを狙われた。その上、プライベートでも待ち伏せをされ、アピールをされることも多々あった。
そのため、莉菜の心は徐々に恐怖に支配され、日が経過するごとにその感情が大きくなった。恐怖が莉菜から多大な体力を奪った。
そして、今日も航平の存在を気にしながら自宅に帰る。
「はぁ〜〜」
莉菜は周囲を警戒しながらドアを閉める。多大な疲れが押し寄せてきたのか、莉菜は盛大なため息を吐いた。
莉菜は玄関でローファーを脱ぐなり、自室に足を進める。アパートであるため狭い自室である。莉菜はその自室にカバンを置いた。
莉菜は崩れるように机の席に腰を下ろした。俯き加減で床を直視する。
だが、じっとしているとさらなる恐怖が遠慮なしに莉菜を襲う。
「・・・」
莉菜はがばっと勢い良く立ち上がり、制服姿のまま自宅を出掛けた。
助けを求めるように前に進む。
何も考えられるずにひたすら前に進む。
莉菜はいつのまにか一輝の自宅前に到着していた。
昔から知ってる1軒家。莉菜は顔を上げながら、一輝の自室の窓をじっと見つめる。
一輝が窓から姿を現す確率などほとんどないのにも関わらず、一点を見つめる。
「莉菜、なにしてるの?そんなところで、俺の部屋を見つめて」
一輝が頭を傾けながら、不思議そうに莉菜に問い掛けた。
「えっ・・・」
莉菜は予想外の人物の肉声に動揺を隠せなかった。上方から横に視線を推移させる。
莉菜の目が私服姿の一輝を捉える。
「・・かず・・くん」
莉菜は無意識に声を震わせる。一輝の顔を見ているだけで安心感が溢れ出した。
「かずくん!」
莉菜は瞳から何粒の涙を落下させながら、一輝に抱きついた。両腕を一輝の背中に回してこれでもかというほどぎゅっと力を入れた。絶対に離れないといった気持ちが表面化していた。
「ど、どうしたの?いきなり抱きついてきて」
一輝は莉菜の突然の行動に困惑した。
しかし、莉菜は反応など気にする素振りも示さず、ひたすら一輝の胸で嗚咽を交えながら多くの涙を流した。
◯◯◯
「ごめんね、かずくん。いきなり抱きついて」
現在、一輝と莉奈は一輝の部屋に身を置く。莉菜は時折、嗚咽を漏らしながら、一輝に謝罪の言葉を伝える。
「そ、それは構わないよ。気にしないで!それにしても、どうしたの?莉菜が涙を流すなんて普通じゃないよ!」
一輝は心配した表情で莉菜の顔を窺った。
「・・・心配してくれてありがと・・・」
莉菜は目を赤くしながらも、お礼を口にする。
それから、莉菜は呼吸を整える。
「実はね・・・」
莉菜は真剣な目で一輝をチラ見すると、俯きながら自身の置かれた状況について話す。
学校やプライベートで航平に執拗にアピールされていること。その異常なアピールに自身が恐怖を覚えていることなど。正直にすべて打ち明けた。
「・・・そうなんだ・・・」
一輝は黙って莉菜の話を聞きながら、ぐっと両拳を握り締めていた。それは怒りから生まれた行動だった。
「鳴本先輩って、俺達が通ってた中学の先輩のあの鳴本先輩?」
一輝は腕を組み、自身の発言が正しいかどうか確認を試みた。
「うん。・・そうだよ」
莉菜は航平の顔が頭に浮かんだのか。怯えた様子で頷いた。
「そうか。あの人か」
一輝は一瞬だけ目が変わった。怒りを帯びたものに変貌した。だが、すぐに抹消した。
「大変だったね。だから、今日はうちでゆっくりしていってよ」
一輝は頑張って優しい笑みを作ると、莉菜の左肩に軽く手を置いた。
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