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華のお江戸の振袖小町  作者: 水虎
第肆幕「個性」
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第肆幕の玖

過去と決別するのには人によって違った要素がいるもの。

 ライブ当日である土曜日。かりんは夢を見ていた。それは、彼女が忘れたくても忘れられない出来事の夢であり、蓮が語っていた事件の全貌である。

 昨年の2学期中盤に行われた彩羽高校文化祭のこと。家庭科部はコスプレのファッションショーを行った。ショーは大成功を収め、卒業する先輩たちの花道を飾ることができた……と思ったその翌週から、かりんの高校生活は激変することとなった。

 文化祭の片付けも終わり、日常が戻ってきた彩羽高校だったが、かりんは教室に入るなり悲しみのどん底に叩きつけられた。

「木谷! 文化祭のファッションショー、見たぜ。お前ってヲタクなんだろ? きっも!!」

「ヲタクは学校に来るんじゃねーよ! さっさと退学しろ!!」

 かりんと同じクラスの男子生徒2人組が突然罵声を浴びせてきたのだ。

 その日を境に、2人組はかりんの趣味や嗜好、学業面に身体的特徴といった彼女に関連するあらゆる部分を槍玉に挙げてひっきりなしに嫌がらせをしてきた。幸いクラスメイトや担任がかりんの味方となり、幾度となくやめるように勧告するも彼らは全く懲りず、毎日続く嫌がらせに最初は無視を貫いていたかりんだったが、だんだんとストレスが彼女を蝕んでいった。

 そして、彼女の心と体は限界を迎えた。

 3学期も半分が過ぎたころ、かりんにとって大切な存在である家庭科部の先輩たちの卒業が日に日に近づいていく中で、かりんは先輩たちに感謝の気持ちを込めた衣装を先輩一人ひとりに向けて作って送ろうとしていた。だが……。

 完成した衣装を渡そうとした当日、かりんが作った衣装が何者かによって盗まれたのだ。必死で捜すかりんに、男子生徒が明るく弾んでいたが邪悪な感情に満ちた声で彼女に話しかけた。

「なあ、これお前のだよなぁ?」

 彼がその手に持っていたのは、泥だらけに汚された上に無残なまでにボロボロに切り裂かれた衣装だった。

 すぐ隣にいたもう1人の男子生徒の片手には鋏があり、もう片方の手は土で薄汚く汚れていた。これが彼らの仕業であることは火を見るよりも明らか。これでは先輩に顔向けができないという悲壮感と、今まで積み重なったストレスで、かりんは涙を流しながら気を失い、その場で倒れこんでしまった。その光景に、二人組は腸が煮えくり返るほどの卑劣な笑い声をあげた。

 この事件はすぐに全校中に知れ渡ることとなったが、学校側は加害者である2人組に対して申し訳程度に反省文を書かせるだけでしかるべき処分を行わず、事実上揉み消したとしか言えない状態にした。言うまでもなくかりんの両親はこれを不服として、学校に彼らの処分を直訴するも、門前払いされてしまった。それでも納得がいかないPTAによって署名運動にまで発展したが、それでも彼らには何の処分も下されることはなかった。

 その後かりんは本人の意思で彩羽高校に通い続けることを決め、しばらくは保健室登校となった。だが、クラスメイト達やこの事件を重く見た養護教諭である百合をはじめとする教師たちが心の支えとなったことでクラスにはすぐ復帰でき、作り直した衣装を渡すこともできた。ただ、理由はわからないが加害者が誰だったのかをかりんをはじめとした生徒たちは忘れてしまっていた。一方の加害者側は、現在も面の皮の千枚張りでのうのうと学校生活を送っている。

 新年度、さすがに加害者と被害者はそれぞれ違うクラスになったが、心の傷はまだ完全には癒えておらず、始業式にあることが起きたことでトラウマが蘇り、倒れる事態にもなった。

 この夢の内容が実際に彼女に降りかかった悪夢であった。この悪夢を眠った際に見る夢という形で再び見たかりんは、冷や汗をかきながら目を覚ます。

「……夢、か……」

 リアルで起きた悪夢を思い出し、涙が浮かぶ彼女の視線の先には、自信作であった振袖小町の衣装があった。

最低な奴はどこまでも最低。こんな奴がもう出てこない……と思いますか?

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