第弐拾漆幕の捌
女だけの国が本当にできてもこんな感じになりそうな予感。
空中に浮かびあがった振袖小町は、女だけの国に張られたバリアを通過して入国に成功する。
「……? なんか匂わない?」
イナリの言葉に振袖小町は首をかしげる。ゴミ収集車が存在しないこの空間にだんだんとたまってきているゴミが悪臭を放ち始めており、キツネの嗅覚には人間でいえば亀井議員の香水に勝るとも劣らないレベルに達してきていたのである。
「へくしょん!! ……誰か噂してるのかしら?」
自分の事務所で書類を書いていた亀井は大きなくしゃみをしていた。
「あら兵隊さん、お疲れ様」
既に入国を済ませた女性が変装した振袖小町に挨拶をしてくる。イナリはかりんの服の裾の中に隠れる。会釈して返すが、正体はばれていないようだ。
「すみません、ここって皆さんで掃除はしないんですか? ちょっと匂いが気になるんですが……」
国民となった彼女にゴミが散乱しているから掃除はしないのかという質問をさくらがすると、彼女は苛立ちながら話し始める。
「そうなの! 街の景観が良くないから掃除してほしいって意見出したんだけど誰もしてくれないの! あなたたちがやってくれるならありがたいわ!」
「いや、そういうことじゃなくてみんなで持ち回りで……」
「なんで私たちがやらなきゃいけないの? 私女なんですけど?」
あまりの他力本願さに全員が唖然とし、この言葉を肉声で発する人が世の中に実際にいたとは、とかりんはさらに唖然としていた。
「じゃ、このあたりの掃除よろしくねー!」
無責任な言葉を投げつけながら彼女は去っていった。P&Lの自己中心的な主張や態度はこれまでにも耳にしてきたが特に社会的に立場のある人間ではないいわゆる一般市民ですらこんなことを平気で口に出すのだから水は低きに流れ、人は易きに流れるを体現した姿を目の当たりにしたと感じていた。
さらに歩いていくと、「Red Spider」と書かれた看板のある店の階段から一人の男性が千鳥足で歩いてくる。彼はこの区画に点在している夜職の人物で、話を聞くとちょうど職場に着いたと同時に地面が浮上して本人の意思とは関係なく女だけの国に来てしまっていたという。
「うう、水、水をくれ……!」
水道とガスが止まったため店内には軽食と酒くらいしか飲食できるものがなく、もともとそういう店を利用していた一部の国民によってそれらの大半を飲み食いされてしまったため飲食物、特に酔いが回って水分を欲したまま頭痛を訴えた彼はそのままその場で倒れて寝てしまった。
「巻き込まれたとはいえ、こういう人たちも大変なんだね……」
「私、大人になってもこういう店には行かないようにしよう……」
悪い大人たちの見本市、ある意味そうなってしまっている場所を歩く女子高生は、この後も他山の石を拾い続けていた。
「あれ?」
ふと空に浮かぶ雲に目が入ったさくらが違和感に気付く。
「ここ……動いてる……?」
地上から見上げると雲は少しずつ動いている。しかし、ここから見上げた空に浮かぶ雲の動くスピードはそれとは明らかに違っていた。
「いやいやそんなまさか……そのまさかだ」
まだ核心にたどり着けていないが、何かが起こっている。本部に行けば答えがわかるかもしれないと進む足を急がせた。
幼少期に行ったホテルの回転式レストランが動いてることに初めて気づいたのと同じ衝撃が振袖小町を襲っています。




