第弐拾漆幕の弐
近くて遠い場所ってあるよね。
墜落したヘリコプターはパイロットごと姫が建国した「女だけの国」の直下にできた大穴に落下した。もちろんこれも大きなニュースとして世界中を駆け巡った。
ただでさえ「女だけの国」の建国は地球上に存在するほぼすべての国と地域でセンセーショナルに報道され続けており、国連でも問題視され対応が急がれている事態、このままでは他国による干渉が起こるのも時間の問題であった。
「こんなにたくさんの人たち、どうすれば……」
ひなたは頭を悩ませていた。そんな大事が起こっているにもかかわらず、全国津々浦々どころか海外にまで現れ始めている信奉者たちは自分たちも祖国を出て姫が治める国に入国、そして帰化を希望する者が大半だった。しかし、バチカン市国の倍ほどしかない国土には彼女たち全員を入国させるほどの余裕などあるはずもなかった。
「それに、このままだと……」
隠し持っていたスマホを見つめ、待ち受けに設定された仲間たちの姿が目に映る。自分が原因で今まさに苦しんでいる者がいる事実が彼女の精神を一番蝕んでいた。
廃屋にいるカルネロたちは3つ、旧事務所にいるロンたちは2つの振袖のカケラが並んだテーブルを囲んでいた。
カルネロとロンが電話をしている。落ち着いた口調で話を続けていた両者が電話を切ると、ロンは決心を固めた表情で立ち上がった。
「P&Lの一件も気がかりだが、こちらも放っておくわけにはいかない……キマ、ラパン、頼んだぞ……」
空を見上げ、仲間が問題解決を果たしてくれることを祈った。
「そういやティーガーが戻ってきてないが……まさかだよな?」
「その可能性は十分ありますね……」
「ああ、あいつならやりかねん」
ロンたちは自分が乗り込めないことにもどかしさを覚えつつ、心配する相手が一人増えてしまったことに頭を痛めていた。
もちろん振袖小町も黙っていられるわけがない。だが、彼女たちにも乗り込むことのできない事情があった。
「どう? できた?」
「ダメ、会員証がないと行くことすらできないみたい」
小町部は目的地へと駆けながら状況を整理していた。会員証とは、P&Lが信奉者に向けて発行している姫への忠誠を誓ったことを示すカードである。これまではファンクラブのメンバーズカードと同じ役割しか果たしていなかったが、今はこれが大きな役目を果たしていた。
まだ国土が狭小であることを理由に女だけの国の政府ともいえるP&Lは現在入国制限をしていた。
毎日ランダムで抽選がなされ、オフィシャルサイトに掲載された当選ナンバーと会員証のそれが一致した者のみが入国できるようになっていた。中には当選した信奉者を襲って会員証を奪い、代わりに自分が入国しようとする強硬手段を取る信奉者まで現れる始末であった。もちろん個人情報の不一致で入国審査の時点で弾かれてしまい、SNSに恨み節をつらつらと書いて叩かれる結果になったが。
「バリアさえ破れれば信奉者じゃなくても中に入れるけど、ヘリみたいになる可能性もあるし、どうすれば……」
アイリスが小さくつぶやく。これが建国宣言後、ずっと小町部の悩みの種になっていた。血液輸送車がジャックされた際にフィーユソルダとして戦闘に駆り出されて負傷し、かんなが病院に付き添った少女、立川鈴那は彼女との出会いを機に既に退会しておりナンバーは失効、頼れる者もおらず八方塞がりだった。
独立国家の誕生で治安が悪くなってます。




