第弐拾陸幕の参
懐かしき記憶とはふとした瞬間に再開が訪れる。
はぐれたさくらはスマホを取り出して電話をかけようとするが、出発前にかりんからなされた注意喚起が頭をよぎった。
「いい? 会場内では電話は通じないものだと思って! もしはぐれちゃったときはあらかじめ集合場所を決めておいてそこを目指すように! あとスマホのバッテリーは極力節約で!」
場数を踏んでいるかりんによる監修で事前に集合場所は彼女が売り子をやっているサークルと決めていたためスマホをしまって地図を頼りに進んでいく。すると、ホールに向かおうとしているテレビクルーを発見する。その中でひときわ目立つ長身の男性の顔を見て幼少期の記憶がよみがえる。
彼女が幼稚園児のころ。当時放送していた特撮ヒーロー「野菜戦隊ベジレンジャー」に蓮が夢中になっていたのだが、特撮ヒーローに男女の垣根などないというかの如くさくらとあおいも見ていた。
だが、さくらは主人公のトマトレッドたちベジレンジャーよりも、悪役である「ユードク帝国」の美形幹部「バレーショ男爵」が好きだった。彼の整った顔面はもちろん、卑怯な手を嫌い、悪でありながら常に正々堂々戦う姿が子供心に魅力的に映った。
物語の終盤、それまで互いの正体を知らないまま友情を深めていたトマトレッドとバレーショ男爵が夕陽を背に決闘を繰り広げ、戦いの中で正体を知り、親友の手によって壮絶な死を遂げたシーンは作中でも屈指の名シーンとして現在も語り草で、幼いさくらは彼の死に大号泣したが、これがここまでの彼女の人生で2番目に泣いた出来事だった。
「……バレーショ男爵!!!」
声を掛けられた男性は驚きの表情を見せていた。
「地図に書いてある通りだとこっちの方だと思うんだけど……」
同じくはぐれたあおいは、ホールにたどり着いていた。ふと横を見ると、同人誌が売られていた。
「(そういえば同人誌ってどんな感じなんだろう?)」
もともと読書を好む彼女は好奇心から目の前のサークルで頒布されていた同人誌の見本に手を伸ばし、表紙の隅っこにR-18の表記がされていることに気づくことなく開いてしまう。厚さ以外は一見普通の漫画かと思って読み進めていくうちに、どこか自分に似た雰囲気の女子が蓮に似た雰囲気の男子といいムードになっていく……というよりも、女子の方がかなり積極的だった。
「(これってまさか……)」
次に開いたページで二人が口づけを交わしたシーンが描かれていたのを目にした瞬間、顔は紅潮し、頭がくらくらしてくる。
「(こんなことしたら……)」
ふらつきはしたが倒れでもしたらそれこそ大騒動、なんとか踏ん張って立った状態を維持する。だがぼんやりとした感覚に襲われ、思わずページを閉じてサークルの机に戻してしまった。熱中症ではないことは自覚しつつなんとか体を動かして集合場所へと移動を始めたあおいの背を見て、サークル主は相手が18歳未満だったことを悟り罪悪感に駆られていた。
知ってる人は知ってる実体験をネタにしました。あの時は本当にびっくりしました。




