第弐拾陸幕の壱
世界最大の祭りが、近づいている。
海を舞台に繰り広げられた人々に悪夢を見せて支配下に置こうとしたP&Lの野望は、振袖小町の手によって阻止された。夢という名の幻想が洗脳すらも打ち砕いたことには両陣営にとって全くの想定外、一方には嬉しい誤算、もう一方には弱り目に祟り目であった。
一件落着した後に海の家のアルバイトには応募が集まり、そちらに任せられるようになって夏休みを思い思いに過ごしていた小町部。しかし、これまでとは一味違う修羅場に追われていた者が一人だけいた。
「この衣装どうなってるの……?」
かりんである。PCに映した画像とにらめっこしながら衣装の構造を研究し型紙を作っていたが、なかなか難航していた。彼女にとってこの夏のメインイベントが近づいている。タイムリミットは近い。
そう、世界最大の同人誌即売会、コミックマルシェ、略称コミシェである。
一般的には生涯に3回だけの高校生としての夏休み、その2回目は前回と違い今のところ濃密だ。コミシェには昨年も行ったが一人での参戦、コスプレをして写真は多く撮られたもののどこか物足りなさを感じていた。だが今回はさくらたちも一緒に行くこととなり、俄然やる気が湧き出ていた。
気づくともう夜も遅い、睡眠不足は作業の質や当日のコンディションに関わると釘を刺されていたため入浴して寝床についた。
同時刻、都内、P&Lの拠点のほど近くにある公園。もとは閑静な場所だったのが、今では外周にたくさんの若い女性が立つ姿が目立っていた。彼女たちの一人が通りかかった外国人男性に声をかけ、夜の街に消えていった。これが4組程あった。
いよいよコミシェが前日に迫ってきた。
「あー……やっとできた……ん、渉くんからだ」
衣装を完成させてひとまず達成感を得ていたかりんに、売り子を務めるサークルである「fool wool」のサークル主で同級生でもある絹越コウヤこと中野渉から連絡が入る。
彼によると、今回隣になったサークル「新時代のジャンヌ」のサークル主である「ミスティ」とはこれまでにそれなりの交友があったがある時期から一切連絡が取れなくなってしまい、SNSにもずっと顔を出していないというのだ。
自分たちに直接関係のあることではないにしても交友のある相手だっただけに彼は気がかりだった。彼女の身に何かあったのではないかと安否が気になっているが自分たちにはどうすることもできない、一抹の不安を抱えながらコミシェの開幕が刻一刻と近づいていった。
今度こそP&Lと無縁のイベントであってほしいが……?




