第弐拾伍幕の拾漆
突破口は意外なところから見つかる。
「……いいんですね?」
二人はうなずく。彼女たちの目を見ると、洗脳が完全に解けていた。そのままさくらとひかりがヘッドギアだけを斬って破壊する。P&Lのコンピューター室のメインコンピューターに付いている紫とオレンジのランプが静かに消灯した。
「こんなことが……! あなたたち! こいつらみたいに失敗したらどうなるかわかってるんでしょうね!?」
「はい、我が姫……!」
皐月、蘭、香澄は姫の恫喝に恐怖しつつ、彼女たちが夢見ていた光景はP&L本部でも共有されており、もし自分が紫苑や杏夏と同じ立場にいたら間違いなく同じようになっていただろうと確信していた。
平和が戻ってきた浜辺も、もう夕焼けが空を染めていた。砂浜にいる人たちも数えるほどとなり、サマーキッズは本日の営業を終了する。シュガームーンは責任者のパワハラ及びスメハラが瞬時に拡散されてしまい営業どころではなくなってしまっていた。しかもその主が議員だとわかるや否や、彼女にはマスコミやネットからの糾弾が待っていた。砂上の楼閣は、崩れ去った。
「みんな疲れただろ! これまかないな!」
そう言って蓮が出してきたのは例の大鍋だった。アイリス以外の一同は記憶に新しい衝撃を思い出して食べるのを拒否しようとする。
「大丈夫! アイリスが作ったやつを俺がアレンジしてみたんだ! 味は保証する!」
カレーらしさを取り戻したルーの色や甲殻類及び貝の殻が見当たらなくなった大鍋の中の雰囲気、そしてこの言葉で安心した一同は恐る恐る食べ始める。目をつぶって食べたさくらは、舌で味わってから喉を通った後に目を見開く。
「嘘、おいしい……!」
「蓮様は帰ってきたらみんな疲れてお腹を空かせてるだろうからとこのカレーをどうおいしくできるか閉店後に店主様と必死で考えておられましたよ。魚介の臭みが消えてうまみがしっかり出て、そこにハーブがハーモニーを奏でてます」
裏話まで聞いてしまっては彼の知られざる努力に頭が上がらなかった。
「しかしこれほんとにおいしい……」
もりもり食べるあおいに蓮がそっと耳打ちする。次の瞬間、彼女の食べる手が止まる。
「どうしたの……?」
「あー、わかった。パクチー使ったでしょ……」
あおいはパクチーが苦手だった。だがそれでも気づかず食べてしまうほどで、健啖家のひかりがおかわりを所望するレベルの一品の明日からの商品化は満場一致で賛成となった。
そして翌日。メニューの仲間入りを果たした改良版海の幸盛り盛りカレーは海水浴客に大好評を博し飛ぶように売れ、この夏のサマーキッズの目玉商品となった。
日が変わり、作戦失敗から時間を置いて冷静さを取り戻した姫は、表向きの顔である女性支援団体の代表として仕事に戻ると、PCに2通のメールが届いていた。その中身を見て、再び彼女は怒りを見せていた。
「何もかも悪いのは……振袖小町と男!」
己の理想の世界を創るための動きをことごとく妨害され失敗に終わっている現状に対するやり場のない怒りを発散させる、それが第一になっていた姫はもはや常人では理解に苦しむ思考にたどり着いていた。
振袖小町の戦いはまだ続いていた。その日の夜、さくらたちは新たな敵と戦っていた。
「「「「ね、寝れない……」」」」
慌ただしさで疲労困憊のアイリスと、店を回すことに尽力していたかんなは熟睡できたが、平和を守るためとはいえ昼間から眠くもないのに寝ざるを得なかったさくらたちは眠れない夜を過ごす羽目になってしまった。明日もサマーキッズは通常通り営業予定、疲れを残さないためにもとにかく布団に横になって目をつぶり、自然と眠気がやってくるのを待たざるを得なかった。
起きられないよりも寝れない方がつらかったりしますよね。




