第弐拾伍幕の拾肆
もしDianthus from.JPNがブレイクしていたら。
「……! 紫苑! 杏夏!」
誰かが呼ぶ声がする。まわりを見渡すと、夕香里や沙羅、そして卯月といった慣れ親しんだ面々がかつて袖を通したアイドルとしての衣装で立っていた。自分たちも彼女たちと色違いの見覚えのある衣装を着ていたが、記憶にあったものよりも肌触りも着心地もよく、いる場所も今まで使ったことのない広々とした控え室だった。
「ここ……どこ?」
「これから何があるの……?」
「もう、何寝ぼけてるの? これからライブじゃん!」
今置かれている状況が理解できていない二人に、あきれたように沙羅が発破をかける。
「ライブ……? 私たち、解散したんじゃ……」
「何言ってるの! このマロニエドームで単独ライブができるくらいに私たち大ブレイクしたのに! ね、卯月!」
「うん! みんな、一緒に輝こう!」
信じられない、これこそまさに寝耳に水だ。しかも一人だけ大ブレイクを果たした卯月の口から発せられた言葉には涙すら出てきた。
「泣くほど嬉しいのはわかるけど、メイク取れちゃうよ!?」
「さ、ファンのみんなが待ってるよ、円陣組もっ!」
リーダーである皐月の一声で10人のメンバーたちが掌を順番に重ねていき円陣を組み始める。大詰めの使い手である彼女が夢を見始めたことにより、彼女が見ている夢はその場にいる全員に共有されていた。
「あれ、卯月ちゃんだよな……」
「そういえば前はアイドルグループにいたんだっけ」
「こうしてみると他の子もけっこういいじゃん」
「青春だね! キラキラしてる!」
夢の世界に連れてこられた人々に縛りついていた理想と絶望が具現化された夢は砕け散る。自由の身となった彼らだったが、振袖小町ともどもその場から動けなかった。
同じ光景は姫の部屋のモニターにも映されていた。心底不愉快な表情をしている姫とは対照的に、皐月、蘭、香澄は自分たちが目指していたが手が届かなかった輝きの向こう側が映像化していることに動揺を隠しきれなかった。
「あれ……なんだか意識が……」
紫苑と杏夏は8人の仲間たちとともに控室からステージに向かう階段を上っていく。1段上っていくごとに、夢の世界を作った張本人である紫苑の寝顔は幸せそうな表情を強くしていき世界そのものを一つの夢が包んでいった。
元ネタにしたグループもこういう未来があったかもなぁ。この人たちの影響で「後にメンバーが一人だけ有名になったブレイクできなかったグループ」フリークになりました。




