第弐拾伍幕の漆
青春の形は人それぞれ。
主人命令でやや布面積が少なめのメイド服を模した水着を身にまとったエリーがお目付け役として近くにいつつ自己防衛してもらいながら彼女にはかりんと桃香ともに呼び込みを担当してもらうこととなり、ホールスタッフにはさくらとひかり、キッチンは蓮とかんな、そしてあおいに決まった。
開店前からてんやわんやしているサマーキッズをよそに、シュガームーンはスムーズに開店準備が整いオープンしていた。
メニューのコストパフォーマンスや味が好評で店員の対応が評判を呼び、サマーキッズがうかうかしている間に行列ができていた。だが、会計を済ませた客が出てくる様子は全くなかった。
「ふふふ、これで多くの同志が……」
接客しながら客に営業スマイルをしつつ心中ではほくそ笑んでいたのは、浜辺で不特定多数の人々に声をかけて回っていた紫のビキニの美女であった。
「じゃあ私はまた巡回してくるから、店の方はよろしく」
「了解」
彼女が出かける際にキッチンからカレーを作りながら返答したのは、先日プラタナスホールで置いてけぼりを食らってしまっていた新橋杏夏だった。それ以外の従業員も全員姫の信奉者となった少女や女性たちで、キッチンには姫の肖像画が飾られていた。つまりシュガームーンの運営元はP&Lだった。ここで働いた賃金は形式上一旦本人に渡されてから本人の意思で姫に上納していたため、実際の彼女たちはただ働きである。
愛知県名古屋市。残る1つの振袖のカケラはこの地にあった。
「「ほんとにあんのかよ……」」
石神とセルペンテが全く同じ愚痴をこぼしながら、指示された目的地に向かってそれぞれ逆方向から歩いていた。
「「あ」」
両者が相手の存在に気づく。
「どうやらお前が俺の相手みたいだな」
「ははは! こんなひょろひょろが相手かよ! 勝てるもんなら勝ってみやがれ!」
傲慢ともいえる自信に満ちた態度で、石神は目的地として指定された場所に駆けていく。
セルペンテはその背を追いかけるが、相手は現役で陸上部に所属している高校生、その差はなかなか縮まらなかった。
「えっほえっほ……」
「わっせわっせ……」
「みんな、あと1往復だよ! ラストスパート!」
浜辺では軟式野球部が足腰を鍛えるために砂浜を走りこみしていた。誠治たち覗き未遂の3人を除く部員たちの大半はノルマの達成まで間近まで来ていた。しかし、彼らの走るコースを塞ぐ者が現れる。先頭にいた部長は思わず走るのを止め、目の前にいる人物の美貌に口をポカンと開けてしまう。他の部員たちもそれに続いて次々と足を止める。
「ねえ、あなたたちの夢、叶えてあげましょうか」
「ちょっとすいません、うちの部に……あれ……?」
砂浜に敷いたシートから立ち上がった久美と増田が立ち上がって言いかけた途端、その場で倒れてしまい軟式の部員たちも次々と倒れる。
青春真っ盛りの若者の裏で青春が過ぎた者が裏で動く。




