第弐拾伍幕の陸
目を離しちゃいけないのは小さな子どもだけじゃない。
「とにかく、手分けして探そう!」
宿舎の中と外に分かれ彼女を探しに行く。宿舎を出たあおいはサマーキッズの目と鼻の先に商売敵となる海の家ができていることに気づく。店の看板には、「海の家シュガームーン」とあった。
まだ準備中で詳細はわからなかったが、店の外観が典型的な海の家と違って浜辺にあるには不釣り合いな小さな城郭のようでどこか引っかかりを覚えていた。
さくらが宿舎を離れて浜辺を歩きながら彼女を探していると、自分と同じくらいの年齢の一人の少年が誰かを探しているように見えた。困っている人をほっとけない性分である彼女は、声をかけた。
「邪魔だ、引っ込んでろ」
塩を通り越してハバネロ対応で拒絶の意思をしっかりと示したガンを飛ばして威圧されたさくらは、すぐ踵を返す。
「(何アイツ、感じ悪い! ……でもさっきの人、どこかで……?)」
彼女は他人を寄せ付けようとしないオーラを全身から放っていた少年の顔にしばらく経ってから既視感を覚えるも、答えがすぐに出る問題ではないため今はアイリスを探すことを先決とした。
大捜索劇はしばらく続き、かりんから海の家で見つかったと連絡があった。
だが、どうにもただじゃすまない事態が起きているようで大至急サマーキッズに集まってくれと書いてあり急いで駆けつける。
宿舎内を探していたあおいとかんなが後から到着すると、現場は彼女たち以外誰もいないことと、生臭い匂いがすることに気づく。
これだけで何が起こっているのかは大体把握できた。アイリスは厨房で鍋の前に立ち、魔女のようにお玉でぐるぐる円を描くように中身をかき混ぜていた。鍋の中からは怪しげな匂いとオーラが放たれ、ぐつぐつと煮立って泡立っていた。
「あ、アイリスちゃん……?」
「何を作っているんでしょうか……?」
質問されたアイリスはふふんと鼻を鳴らし、自信満々に答えた。
「夏の海、つまり一度きりの思い出を演出する最高のカレーを作ったの! 名付けて、海の幸盛り盛りカレー!!」
恐る恐る鍋の中を見てみると、殻ごと放り込まれた貝やこれまた殻を取っていない、ということはもちろん背ワタもそのままのエビやカニが形容しがたい色に染まってしまった液体の中でもがいているようだった。
犠牲者が出る前に処分しようとしたら、厨房で一人の男性がうつぶせで倒れていた。この海の家の責任者に当たる人物だった。彼の周りはアイリスが錬成した物体と同じ匂いがしており、事情を知らなければ殺人事件と間違われるシチュエーションができてしまっていた。カレーの入った大鍋は一旦冷蔵庫に入れて保管することにした。
「アイリスさん、どうしてこの人が倒れてるか説明してください」
「私のカレーの味見をお願いしたらおいしかったみたいで、ちょうどみんなが来たちょっと前にそのまま寝ちゃったみたい」
耳を澄ますと、彼はいびきをかいていた。だが彼女の供述はすべて正しいといえるわけではなかった。
間違ってもこれ以上アイリスを厨房に近づけてはいけない、キッチンスタッフにしてはいけない、彼女の料理の恐ろしさを初めて知った桃香も含めて全員が覚悟を決めた。
人間が食べたらいろいろとよろしくない代物が作れるのはあなただけです、アイリスさん。




