第弐拾伍幕の参
大きな決断と一歩。
その日の夜遅く、東京に行くとだけ書き残したまま帰ってこない娘に連絡を取ったところなんとか電話がつながり、彼女がいる場所を突き止めることに成功したサラリーマンは急いで有休をとっていた。
翌朝の博多駅のホームには、彼がチケットを手に決意の表情とともに立っていた。彼は呼吸を整えてから到着した新幹線のドアをくぐり、座席につく。しばらくしてから新幹線は東京に向け発車した。
「待ってろよ、じぇったいに助くるけんな……」
翌日、この日小町部は海沿いの町に来ていた。例年この地で金丸ホールディングスが運営している海の家「サマーキッズ」のスタッフが人手不足となったため助っ人として駆り出されたのである。軟式野球部の合宿が同じスケジュールで行われ、いつも使っている宿舎が近くにあったことから小町部も同じ宿舎に泊めてもらえるうえに行き帰りも一緒になった。もっとも、かりんは担任である増田大志が軟式の顧問でもあるため肩身が狭くバスの中での居心地はあまり良いとは言えなかった。なお、彩羽高校の生徒ではないひかりはエリーが運転する車に乗って移動していた。
一方同じ顧問の立場である桃香は、先日のP&Lによる襲撃のようなことがまた出先で起こらないかが悩みの種だった。実際に百合にも相談してあるほか、高校時代の友人であるレポーターの菊池比奈にも連絡していた。彼女はこの問題について大きな関心を寄せているうえに彼女の仕事場であるテレビ局をはじめとするオールドメディアはP&Lではなくナフ・ヴァルキリーが事件を起こしている、つまりP&Lの代表は一切無関係だというスタンスで報道する姿勢を貫いていることに疑問を抱いていた。実際に間近で見た彼女の姿も含めて一切の根拠こそないがどこかきな臭さを感じていた彼女は、揉み消しの危機と隣り合わせでありながらも個人的な調査を開始していた。
「あおいさん……」
誠治は小町部と同じバスで向かっているという事実に頭の中がいっぱいで、同じ部員との会話中も上の空だった。隣の席に座っていた蓮はこの分ではあおいに対する片想いはまだまだ続きそうだと心の中で苦笑いしていた。
一方エリーが運転する車の中では、ひかりに対して一つの問いかけがなされていた。
「……うん。できるなら、そうしたい」
「ならお嬢様に話を通しておく。書類のことは心配しなくていいから」
「……ありがとう、えり姉!」
普段の金丸家のメイドとしてではなく、フリージアでの姉的存在として接しながら彼女のこれからについて話していく。忠告された通り自分がいつまた死ぬかは誰にもわからない、ならば死ぬまでは振袖小町として戦うことと普通の女の子としての人生も謳歌することを並行する意向を示すと、ルームミラーにはエリーの笑みが映っていた。それに気づいたひかりは安心し、到着まで他愛のない会話をしながら過ごした。
何の為であろうと決意することは人生の分岐点。




