第弐拾肆幕の捌
平和を祈る場に響く怒号と、怪しげな演説。
「おい」
目的を果たして達成感を味わいながら原爆ドームの外に出て元の姿に戻った北沢に、ゴーダが問いかける。
「お前、ガキが泣いてるのが聞こえなかったのか?」
「聞こえてたぜ?」
今まで何をしていたのか忘れていたかのようにあっさりとした返答に、ゴーダは業を煮やして彼の胸ぐらをつかんだ。
「ならなんでだ! なんで戦いをやめなかった! 答えろ!!」
怒号にひるみながら彼は答える。
「ああやって怯えて泣いてる雑魚の声が大好きだからだよ!!」
常識では考えられない感性をした回答に呆れたゴーダは何も言わずに彼を離し、何も言わずに去って行った。
「……負け惜しみかよ。これだから弱い奴はいじめ甲斐があるんだよな」
下衆い笑みを浮かべながら北沢が後にしたことで、戦場となってはならない場所は元の恒久の平和を祈る場所に戻る。彼はその後も何食わぬ顔で広島のグルメを堪能してから帰っていった。
P&Lの作戦がすでに始まっていることなどつゆ知らず、小町部も会場に到着する。彼女たちに用意されていた控室に行くまでに、ホール全体があまりにも静かすぎて薄気味悪さを感じていた。それどころか、受付や清掃、警備などのホールそのもので働くスタッフの姿もなく文字通り人っ子一人いない状態だった。
「なんか、静かすぎない……?」
「先生、最初のプログラムって何が入ってるんですか?」
「それがこっちにも知らされてないのよ」
招待された児童養護施設側はおろか、ボランティアで出展する側にまで当日のスケジュールを秘匿する必然性があるのか疑問を抱きながら歩き続ける。しかし、当初案内されていた控室は鍵がかかっており、他にそれらしき部屋がないか手分けしてしらみつぶしに確認してみるが、どの部屋も入れないのは同じであった。
違和感を覚えながらもしばらく歩いていると、ホールから静けさを打ち破る万雷の拍手の音が鳴り響いてくる。
「今度は何!?」
「とにかく、ホールに行ってみよう!」
一番近いホールにつながる扉を見つけ、開くと……!
「For my princess! For my princess!!」
扉を開くと同時に聞こえてきたのは、虚ろな目をした少年少女、絶望しきった表情をしている男性の引率者たち、そして少女の半数、女性の引率者の多く、そして一部の男性引率者たちが立ち上がり行っていたシュプレヒコールだった。
「どうなってんだ……!?」
「あっち見て!」
かんなが指差したステージには、蘭と馬込がいることに気づく。馬込は姫が理想とする世界ができた時のことを悦に入りながら語っており、洗脳には姫の言葉を1分聞かせるだけで十分なところを彼女はそれにつけ加えて話し始め、長さは実に10分を越えていた。話していた内容は、働く女性がビジネスの場でハイヒールやパンプスを履かなければならないのはおかしいという意思を表明した抗議活動や、自らが芸能活動時に受けたセクハラをはじめとする屈辱という名の恨み節がほとんどで、蘭は姫の言葉さえあればいいものを余計なことをする、しかも簡潔に話せば1分でまとめられる内容、いかに自分が凄いかを自慢したいだけだと冷ややかな視線を送っていた。
下衆な奴はどこにでもいる、こういう輩は痛い目に遭わなきゃいかん。




