第弐拾肆幕の漆
大阪、福岡ときたら……?
「そろそろみたいね」
「最後に到着した施設の子どもが全員着席完了、準備OK」
ひまりがステージから幕を少し開いて目視で会場の子どもたちが一人残らずホールの中にいて席に座っていることを確認して知らせる。
「始めましょう」
会場が消灯し幕が開くと、ステージには黄色のサリーを模したFFVを纏った蘭、そして表向きにはP&Lの支援者、実際は姫に心酔している信者ともいえる存在である元グラビアアイドルの社会活動家馬込亜沙美が立ち、彼女たちにスポットライトが当たる。
舞台に女性が立っていたことに劇が始まるのかとわくわくしていた子どもたちと、何が起こるのかがわかっている表情をしている一部の引率者の対照的な表情が観客席から見える中、馬込が口を開いた。
同時刻、広島県広島市。
広島平和記念公園に、男と少年が向かっていた。数店もの酒屋をはしごして地酒を堪能していたところに目的の代物の位置が特定できたという指示が飛んできて酩酊しながら慌てて駆けているゴーダと、同じく現地の人に教えてもらったお好み焼きの名店で広島の代表的なグルメである麺の入ったお好み焼きを味わっていたら直ちに目的地へ急げと発破をかけられていた北沢だった。
「お前か? カルネロのパシリのガキは。人が気持ちよく飲んでたところを邪魔しやがって!」
「それはこっちの台詞だ! おかげで食い逃げと誤解されちまったじゃねーか!!」
北沢は京田が持っていたものとは違ったデザインをしている手のひら大の甲冑を取り出す。広島を訪れた本来の目的そっちのけで楽しんでいた私用に水を差され立腹している同士、原爆ドームを背にして怒りの戦いのゴングが鳴り響いた瞬間である。
「集着!!」
手のひらサイズだった甲冑がみるみるうちに人間の纏うことのできる大きさにまで巨大化、パーツごとに分離して彼の体に装着されていく。その姿は、豚を模したデザインの黒いパワードスーツとなっていった。
「悪いが、武装した相手の対処は慣れっこでな!」
姿が変わってもひるむことなくゴーダは自らの拳を素早く何発も鎧にねじ込む。しかし、強靭な肉体を持つ彼の拳をもってしても北沢の纏ったパワードスーツは一切傷もへこみもつかなかった。
これには纏っている側も想定外だったようで驚きを隠せず一瞬足が止まるが、彼を振り払って原爆ドームの中に進もうとする。
「さっき飲んだばかりだから使えるはずだ! 一気当千!!」
戦いとは無縁であるはずの高校生などに敗北を喫することなど、彼のプライドが許すはずはなかった。相手が外付けの鎧で力を得ているのなら自分は自らの肉体を強化して対抗する作戦に出た。
平和を祈るべき場所で起こった鎧の男と筋骨隆々の男の戦いはその場に居合わせていた人々から非難轟々だったが、異次元の速さで攻撃が繰り広げられており止められる者は一人もいなかった。
力を解放したゴーダの一撃は彼の体にもしっかり伝わってきたが、剣道経験者である彼からすれば鎧で軽減されていれば歩くことは可能だった。
飲酒して時間が少し経過してから大詰めを発動したため制限時間がいつもより短くなっているのは覚悟の上だったゴーダだったが、自分たちの戦いを目の当たりにして涙を流している子供が目に入り手が止まる。
「(な、なんでだ……!? 体が、動かねえ……)」
何が起きたのかわからなかったがチャンスであることに違いはない、相手の化け物じみた怪力と攻撃力の凄まじさを装備ごしに受けただけに逃してしまっては敗北が決まることを悟った北沢は立ち入り禁止の柵を破壊して原爆ドームの内部へと足を踏み入れる。
人々の悲鳴など自分への称賛だと言わんばかりに悠然とした態度の北沢は、中心部で立ち止まり自らの拳を地面に強く振り下ろした。
貫通した拳はひび割れた足元からあふれ出た光の光源をつかむ。地面から手を引っ張り出すと、掌の中には振袖のカケラが一つあった。
原爆ドームの建っている場所に振袖のカケラ、この世界においては崩壊しなかったのはこれが理由です。




