第弐拾肆幕の伍
事件が起きた福岡の一般市民の反応。
「なんなのよこれ!! おかしいじゃない!!」
福岡市美術館襲撃事件の日の夜、P&Lでは姫が薄暗い監禁室で両手足に枷を付けられたひなたに叱責というレベルを通り越した感情に任せた罵詈雑言を叩きつけていた。
「申し訳ございません!」
「その言葉、聞き飽きた。口では何とでも言えるから」
姫は冷たい視線を送る。
「さっき外でガキがうろちょろしてた。本来であれば今頃そんなこと起こらないはず……どういうこと?」
ひなたは黙秘する。
「……まあいいでしょう。猶予を与えます。もうすぐ作戦決行日、その日が終われば放っておいても起きるのは火を見るよりも明らかです」
姫は監禁室を去って行く。その背を見つめながら、ひなたはひとり涙していた。
「(昔からあんなだったけど、ここを立ち上げてからさらにひどくなった……まるで何かに取り付かれたみたいに……)」
扉が閉まり、部屋から光が消えていった。
その日の夜、博多の屋台街では福岡市美術館の襲撃の話でもちきりだった。おでんの屋台では現場を目撃したというサラリーマンが日本酒を飲みながら愚痴をこぼしていた。
「あげん危険な奴が福岡にも出て来るげな、ほんと困ってしまうばい」
「あれ目ん前で見たと? そりゃ気ん毒やったね」
「そういやあ大阪でも変な鎧ん化け物が道頓堀川ば泳ぎよったって言うし、福岡もこれだけやなかかもしれん」
K2とキマによる道頓堀の戦いも衆目を集めていただけに、すぐさま全国を駆け巡る話題となっていた。
「うちん娘もずっと帰っとらんし、どうなっとーったいか!」
もう一人のサラリーマンはコップの中の日本酒を飲み干すと、「東京に行く」とだけ書き置きしてから1週間以上帰っておらず連絡も全くないという娘を心配し酒の勢いもあってか男泣きしてしまった。
一緒に飲んでいたサラリーマンはおろか、屋台の店主やたまたま同じ屋台で食べていただけの見ず知らずの客までもが彼に同情しはじめる。
「もしかするとここが絡んどーんやなかとかい?」
そう言って一人の客が見せてきたのは、P&Lの公式サイトだった。彼は憤慨しながらP&Lによる被害を愚痴り始めた。なんでも、彼の部下に姫の信奉者がいて彼女の手引きで業務中に何人もの信奉者が押しかけてきてゲリラデモが起きたという。
「こん団体がこん前うちん会社に来て『九州は男尊女卑が激しか、是正すべきや』って抗議活動ばしてきて、しゃあしゅうてしょうがなかったっちゃん。なんとか警察呼んで帰ってもろうたばってん、姫とかいう指導者ん顔が見てみたかばい。きっと美人やなかはずや」
客のスマホを見てサラリーマンは東京で起きた血液輸送車の事件を起こしたのがP&Lだという噂を耳にしていたことから、さっきまで娘が姿を消した悲しみに泣いていたことと酒に酔って赤ら顔だった表情がどんどん青ざめていく。
「ほんなこつそうやったらうちん娘は……!! 大変や! ごちそうしゃまやった!」
我に返って立ち上がったサラリーマンは大急ぎで勘定を済ませる。振袖小町が現代にも現れて悪と戦っていることはもはや日本中の常識となっていたが、それよりも娘が怪しい団体に騙されていないか、心身が無事なのか気が気でない波乱の家路だった。
翻訳を使ったので博多弁がおかしい部分があったとしても見逃していただけると助かります。




