第弐拾肆幕の肆
いかんとよな事態が発生。
同日、福岡県、福岡市。
オリエント・ゾディアックが拠点とする東京からは遠く離れた九州一の大都会にティーガーが足を踏み入れていた。
「(あいつは……)」
福岡市美術館の展示を見て回っていた相手は、ティーガーも到着していたことに気づくまで少しの時間を要した。
その瞬間が戦いのゴングだった。彼は敵襲に備え腕に電撃を纏わせるが、そこに現れたのは……!
「ティーガー!」
「……さくら!?」
ティーガーの意中の相手であるさくらだった。しかしここは福岡。地理的にかなり離れた東京にいるはずのさくらがいるはずがない。頭ではそうわかっていても纏わせていた電撃は引っ込み、直後に彼はいきなり両手で右手を握られ動揺してしまう。
東京にある自宅にいるさくらは今この瞬間に遠く離れた福岡で二人が対決の兆しを見せていることなどもちろん知らないが、やり取りが繰り広げられているのと全く同じ時間に両手の震えが止まらなくなった。
「……まだまだだな」
握られている状態で再び手に電撃を纏わせ、さくらの姿をした人物に電撃を浴びせる。もちろん本物ではないさくらはその場で倒れこみ、正体が露見する。彼女に化けていたのは麻生だった。
「お前は何もさくらのことを分かってない!! 俺と付き合った時ですらさくらは手をつなぐときは恥ずかしがって自分からは手をつなぐなんてとてもじゃないができなかった。そして今の俺とさくらは敵同士、そんな境遇にいながらいきなり手をつないでくるなんてありえん!!」
さくらとは会話もしたことがない相手の変装など形だけ真似したまがい物だと言い放つティーガーに麻生は歯を食いしばって悔しがる。
「頭がくらくらしてきた……」
「だ、大丈夫……? 一体何が……?」
両手の震えの次は眩暈が起こってきた。イナリは何か起きているのかと感覚を研ぎ澄ませるも、さすがに福岡で何かが起きているとまでは察知できなかった。
「この野郎、俺に手を握られてドキドキしてたくせに、よくもそんなのろけ話を堂々と……! 集着!!」
憤怒の表情を見せながら麻生が銀色のタヌキを模した甲冑を装着するが、以前とは細部が違っていた。
「そんなわけないだろ! 俺はさくら以外恋愛対象じゃない、形だけ真似したって意味ないんだよ!!」
手を握られてドキドキしていたことを否定しつつも、内心では相手がこれまでとは違うことを悟っていた。熱く語られている側は全身を寒気が襲い、夏だというのに厚い布団にくるまっていた。
「なんだなんだ?」
少年が謎の怪人と対峙している、東京では振袖小町と怪物の戦いはもう見慣れた光景になっているがここではそうではない。戦いを目にした人々が騒ぎ始めた。
「(……短期決戦に持ち込んだ方がいいな……)」
ティーガーはある考えを思いつき、迷惑行為であるが背に腹は代えられないと走り出す。
「待て!」
ムングは慌てて追いかける。しかし彼はもともと運動が不得手だったため装備によるバフで補正がかかっているとは言えティーガーも同じく振袖のカケラ、それもひかりの体内にあったもののように寅の紋章が内包されているため身体能力も素の状態で上がっており追いつき追い越すことはできなかった。走った先は特別展示室だった。
「付和雷導!」
右手から雷をガラスケースに向けて放つ。すると簡単に割れ、警報音が鳴る。警備員が駆け付けるも、明らかに見た目が普通ではない麻生が犯人だと決めてかかり取り押さえようとした。
その間に、割れたケースの破片とともに光る一つの光源を手に取る。なんと、争奪対象となっていた振袖のカケラが江戸自体の振袖小町ゆかりの宝石として展示されていたのである。
「……よし!」
光源であった振袖のカケラをその手に掴んでいたのはティーガーであった。しかしここまで繰り広げた争奪戦が美術館をお騒がせしてしまったことは紛れもない事実、勝者も敗者も大慌てで撤退した。
「……なんだったんだ……?」
福岡の人々は呆然と立ち尽くし、損害額が相当かかることを嘆く者や、荒らすだけ荒らして後始末を全くせずに去って行った二人に怒る者もいた。
他の地域ではどうなっているか、それは今後をお楽しみに。




