第弐拾参幕の拾参
内部と外部では見え方が違う。
「そうだ! 弁護士さん、また車に乗せて! このまま血液センターにクラッシュさせちゃお!!」
血液センターまでもうすぐのところまで来ていたことに気づき輸送車の影に隠れ、そのまま走らせて逃げようとしたが……。
「輸送車ならもう乗れないよ!」
多くの動画が撮影されてSNSに拡散された結果、映っていたナンバープレートから特定された血液輸送車は警察が包囲しており、運転席に座っていた保谷が暴走させた張本人として現行犯逮捕されていた。
「違う! 私が運転したんじゃない! 離しなさい!!」
警察が暴れながら否認している保谷の対応に手を焼いている間にエリーが事情を説明し、血液をヘリに運ぶ。
「ご、ごめんなさい! 謝るから許して! お願いだから!!」
怒りの表情で詰め寄ってくる振袖小町に圧倒的不利を悟り、泣きそうになりながら謝罪の意を述べる沙羅。
「……なーんて言うとでも思った? 影駭響侵!!」
表情がガラッと変わり、近寄ってきた振袖小町の影に潜り込んだ。
5人のうち誰の影に入ったのかわからず、どこから攻撃が飛んでくるかわからない状態になった。
負傷したフィーユソルダ、本名、立川鈴那にヘリが送り届けた先の病院では、かんながストレッチャーに載った彼女に付き添っていた。彼女は左手からの出血多量で輸血が必要な状態にあり、だんだんと顔色が悪くなっていった。
「輸血!? そんなことしたら姫が忌み嫌う汚らわしい血がこの体に入る!!」
自分の命が危険にさらされているにもかかわらず激しい拒否反応を示す彼女に、姫が何を言っていたのかかんなが尋ねる。
両親との不和を理由に家出したはいいが行き先もなく途方に暮れていたところを姫に保護されて以降、彼女は姫が表向きに掲げている女性の地位向上や性差別の排除といった内容の学習から始まり、だんだんと「女性だけの世界」を創り上げるという真の目的の内容へと変わっていき、この世の全ての男性は敵、特にオタクをはじめとする女性に見向きもされないような男は生きる価値がない、それは同じ女性であっても同じであるからそのようなキモい女性になってはならないという彼女の声を謁見の際に廊下から目撃した部屋で装着するヘッドギアから毎日脳に伝達していたという。
「エグッ……」
前線に出て戦っていたほどだから相当なことをしていたのは容易に想像できたが、改めて具体的な内容を聞くだけで底知れぬ恐怖が感じ取れた。
「だから私は姫を裏切るわけには……! この前のキャンペーンもあったし、キモいオタクの血が体の中に入るくらいなら……!」
「待って!」
かんなは彼女に駆けられた姫による呪いを振り払おうと口を開いた。
「あたしも女だから嫌だと感じる男の人はいる。でも嫌な理由は男だからとかオタクだからとかじゃないことがほとんど。それに、あたしのいつメンにアニメとかコスプレが大好きな女の子がいるけど、毎日楽しく過ごしてて、すごくキラキラしてる。全然キモくない。あなたは姫のために、姫が目指す理想のために戦いに出たんだと思う。それがたとえ死ぬとしても。でも、姫はあなたに今まで何かしてくれた?」
鈴那は姫に保護されてから今に至るまで、彼女が自分に何を施してきたかを振り返る。
「でも、これだけは言える。あたし的には、慕ってくれている人に対して偉そうにしてただふんぞり返ってるだけで何とも思わない、代わりなんていくらでもいるって思ってる方がよっぽどキモい」
意識が薄れゆく中、頭を強くたたかれたかのような衝撃を彼女の言葉から感じる。
「あなたがどう思うか、どう考えるかはあたしにどうこうはできないけど、誰かの受け売りじゃなくてちゃんと自分の頭で考えてみて」
うっすらと聞こえてきた言葉に決断ができた彼女は、ゆっくりと処置室へと向かった。
自分の好きなことを全力で楽しんでる人は輝いている。




