第弐拾参幕の捌
悪の組織につきものなやつ、忘れてない?
暴走を続ける血液輸送車の運転席では、本来運転しているはずの運転手が前代未聞の事態とあまりの速さで走り続けていることにショックを受けて気絶していた。こうなったのは想定外ではあるが、むしろ輸送車を操っている側からすれば好都合だった。
「運転手のおっさんもざこ~! 姫が世界を創り変えたら殺処分確定~♪」
緑色のブーナッドと呼ばれるノルウェーの民族衣装を模したFFVを身に纏った沙羅の態度は相変わらずであったが、隣にいた保谷は弁護士らしく楽観視している彼女と違って慎重であった。
「あ! ざこおじ発見!」
我が世の春とでも言わんばかりの沙羅は、冴えない男性が横断歩道を渡ろうとしていたのを目撃し、信号など無関係で暴走させているから彼をまるで虫を潰すのと同じ感覚で跳ね飛ばしていた。
「楽しそうなこと。でも、もし振袖小町が来たらどうするつもりかしら? あなた一人で勝てる見込みはある?」
「大丈夫、助っ人がいるから」
「もし助っ人が破られたら?」
「破られたら……そのときはそのときで……」
先のことを見据えている質問に確実な対策ができていないととれる回答をしてしまい、保谷は先行きに一抹の不安を抱えた。
「待てー!!」
ひかりを除く振袖小町が追いついてきた。エリーが操縦するヘリが空から血液輸送車を追跡し、彼女たちの誘導をしていたのだ。
しかし、運転席をのぞき込んでも中にいるのは気絶している運転手だけ、他の誰かが車を操っているようにも見えず、騒動の主がどこにいるのかはわからなかった。
「やっぱり来たじゃない! どうするの!」
「こういったときのためにさっき言った助っ人がいるから大丈夫! それとも姫がお考えになった戦力が信用できないっていうの?」
姫を持ちだされては保谷も二の句は継げず、沙羅はピュイサンス・ファムの中心部に指をあてる。それと同時にP&L本部では保護されていた少女たちがVRゴーグルと支給されたブレスレットを装着した状態で次々と一つの部屋に集まってくる。
「(遂にこの時が来てしまった……)」
ひまりは気乗りしないことを隠しながら、メインコンピュータールームで機械のスイッチを押す。すると彼女たちは一人残らず部屋から消えていった。
血液輸送車の暴走は留まるところを知らず、追っている振袖小町もこれがいつまでも続いていたらけりがつかないことを悟っていた。さくらがやっと追いつけそうになった時、彼女の脚をつかんで妨害する者が現れた。その勢いで彼女は転倒してしまう。
「誰!?」
後ろを振り返ると、全身黒ずくめで体のラインが隠れている衣服に身を包んだ正体不明の人物がいた。それも足をつかんでいる者だけでなく複数人で、走っていたあおいやアイリスの前に立ちふさがりその隙に輸送車の行方を見失ってしまった。
話は沙羅の出撃直前にさかのぼる。全員にブレスレットの支給が終わった後、皐月が姫に質問する。
「姫、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「何かしら」
「保護した少女たちに先日配ったブレスレット、あれはどういったものなのでしょうか」
質問内容を聞いてから頷き、姫は答える。
「あれはあなたたちを補佐する戦士になるためのもの。この前の失敗を見て必要だと思ってね。戦士の総称は……フィーユソルダとしましょうか」
皐月は納得する。だが、これには恐ろしい機能が備えられていることを姫はあえて口にはしなかった。かぐやは自分が渡す段階で質問をしようとして断られたが今は答えている、つまり後戻りができなくなってから種明かしをする狡猾さと邪悪さを思い知っていた。
戦闘員、はじめました。




