第弐拾参幕の漆
暴走する車は出すだけで1話使える。
これで解散となって帰りの準備をしていた頃、献血センターの職員が慌てふためいていることに気づく。何が起きたのか百合が尋ねると、たった今出発した血液輸送車が暴走を始め、運転手から車の制御ができないという連絡と、目撃者や拡散された暴走している場面を撮った映像を見た人々によるクレームが殺到して対応に追われているというのだ。
「今日はこれで解散! お疲れ様でした!」
こんなことができるのは振袖のカケラを持っている者しかいない、ちょうどよく解散となったためさくらたちは全員そろって帰るふりをして追うことにした。
……のはいいが、イナリがひかりと一緒のため探知は不可能、ひとまず血液センターに向かうことにした。
献血センターを後にする生徒たちを見送った桃香と百合は、帰りに喫茶店に寄り桃香はカフェラテ、百合はストレートティーを頼んで飲み始め、今回の事件が何者の仕業なのかについて話していた。
「今回は怪物じゃなくて車が勝手に動いてるっていうけど……」
「これは私の直感なんだけど、学校で暴れてた怪物と今回の車、裏で操ってる人間は違うと思う」
「理由は?」
桃香が尋ねると、百合は各地で目撃者が撮影して投稿した車が暴走している動画をスマホで検索し、次々と再生していく。
「車の動きに注目して」
いくつもの短い動画をしっかり注視する中で、桃香はある状態になったときに必ず起きている動きに気づく。
「もしかして……!」
「うん。そういえば最近話題になってる団体あったよね?」
「洗剤とか紙おむつの会社みたいな名前のとこ?」
名前のたとえに拍子抜けするが、百合は話を続ける。彼女は先日P&Lの活動を追ったドキュメンタリーを視聴し、違和感を抱いたという。
「代表の人をはじめどうにも胡散臭いというか……もしあの団体が振袖小町の敵だったらやりそうなことしてる気がするのよね」
胡散臭いという感想はドキュメンタリー内での彼女の発言はもちろん、施設の様子や活動内容に単なる慈善事業だけではない別の一面を感じることを理由にしていた。桃香は自分のスマホで車の動き方に再び注目して動画を見返していたが、危険な運転による犠牲者が出ないことを切に願っていた。
セルペンテはくじ引きの結果で決まった目的地である名古屋に行くための足としてバイクをレンタルしようとしていた。だが、財布の中に入っていた免許証をよく見たら死んでしばらく経った頃に失効していたことに気づき落胆していた。この事実は今の自分は公には死んだ身であることを改めて感じ、体は死んでいるが精神は生きていてこうして動いているというと、気づいていなかったうえに急ぎだったとはいえ一時的に無免許運転をしてしまっていたことに罪悪感を覚えていた。
「心臓ってどんな感じで動いてたっけなぁ……。んなことより、さっさと行って回収して帰るか。飯のうまいとこに行くけど、今食べても味がほとんどしねぇから意味ねぇしな」
今解決できないことをうじうじ考えていてもしょうがないと割り切って駅に向かい、名古屋行きのチケットを買って出発した。
ヤバい思想に取り憑かれてない感覚を忘れちゃいけない。




