第弐拾幕の拾
光落ちの真骨頂。
「……え?」
何が起きたのかわからず目を舞叩かせるイナリに彼女は右手を差し出し、彼の右前足と握手する。それでも、彼はきょとんとしていた。
「キツネくん、今までごめんね。ボク、やっとわかったんだ」
つんけんした雰囲気がなくなった彼女が本当にこれまで知る彼女と同一人物なのか疑うイナリは、かつて対面したときに投げかけられた言葉を思い出し、答えた。
「あれからさくらたちのことは困らせてないよ、ひかり。それから、僕の名前はイナリだよ」
自分に言われたことを覚えていたことに気づいたひかりは微笑み、そして決意を語る。
「ボクは、今までたくさんの人を悲しませた。どんなに謝っても許してくれない人だっているかもしれない。でも、それでも……! ボクは助けを求める誰かの力になりたい!!」
彼女の体内にあった振袖のカケラは、さくらに敗れるまで瘴気に中てられていた。それが今は抜け、純粋な振袖のカケラとなった。文字通り憑き物が消え、鳥羽ひかりとして持っていた優しさを取り戻したのである。
しかし、それだけであれば他と同じように衣桁に収まるのだが、ひかりの仮初の命を形成していたものだけは収まることを拒否しているかのようなそぶりを見せていた。
「ひかり、もしかして君の体の中にあった振袖のカケラは……!」
すでに一度命を落とした身である鳥羽ひかりの精神は鳥の絵が内側に描かれた振袖のカケラが生み出した仮初の命がつながっているという仮説をイナリは立てた。そうすると、矛盾なく辻褄が合う。
「そうみたい。今のボクがすべきこと、それは……!」
言いかけた瞬間、一つの影が現れる。
その頃、暴れるハンジールと彼の体から出てきた触手になすすべがなく、振袖小町は体力をどんどんすり減らしていた。傷ついていく彼女たちに何もできないことに無力さを感じ苛まれながらも勝利を信じる蓮と、奇跡が起こることを疑わず、一発逆転の光明を探し続けるかんなは避難誘導を続けていた。
「(大丈夫、あたしはみんなを信じてる! あんなのに負けるなんて、なしよりのなし!!)」
和解を果たし、振袖のカケラの謎を一つ解き明かしたひかりとイナリの前に、かつてさくらたちが振袖小町になる直前に夢に現れ、選ばれた際に不思議な場所で出会った白い着物を着た少女が現れる。ひかりもイナリも、その顔には見覚えがあった。
「あ、あなたは!!」
イナリは彼女の顔を見るや否や背筋が伸びる。
「あなたの忌まわしき過去に向き合う姿勢、それでも前を向こうとする覚悟、贖罪を果たそうとする強い意志、私は感じ取りました」
ひかりは小さくうなずく。
「今暴れている亥の振袖のカケラを持つ者は、大量の金の元素を注ぎ込まれた影響で肉体が侵食されています。他の元素をつかさどる振袖小町では救うことはできません。あなたにこの力を託します。本当は避けたいのですが、今はこれしかありません」
「それって一体……!?」
「あなたは一度ならず仮初の命が死を迎えた身、本来ならば現世に戻ることできません。それにこの振袖のカケラで戻ったとしても、その命はいつまた尽きるかは私にもわかりません」
大きな爆弾を抱えた状態で再び戦いに身を投じなければならない、しかしそうしなければ世界が悪しき者に創りかえられてしまうことは免れない。悩んだひかりは、思い切った提案をする。
「時間をもらってもいいですか。その前にどうしても話したい相手がいるんです」
「猶予はあまりありません。手短にお願いします」
時間をもらい、ひかりは両親の元に戻る。彼女が去った後、少女はイナリに語り掛ける。その内容に一度は耳を疑ったが、彼はこれからさらに激しさを増す戦いへの覚悟を固めた。
この演出は……わかるよね?




