第弐幕の玖
悪い奴もただ秩序を乱しているわけではありません。彼らにも悲しい過去があることがあります。
廃研究所の大部屋では、ネガボットが誕生したのと同時に起動したカメラから中継されたライブ映像を見るために、隻眼の男、美女、そしてキマが集まっていた。大部屋にいたうちでただ一人、ハンジールだけは映像には目もくれずに黙々と腕立て伏せをしている。
「138、139、140……」
「がっはっは! 失恋をもとにするとは、チュイもガキのくせしてなかなかいい趣味してるぜ! なぁ、ボヴィーニの姉さんよぉ!」
眼帯の男はご機嫌そうに缶ビールを流し込みながらボヴィーニと呼ばれた美女に話しかける。
「色恋沙汰って面だったら、今回はティーガーちゃんに注目してあげた方がいいかもしれないわよ。あの子、なんかこの前の映像に気になる子がいたみたいよ」
「ふーん、あのイケメンがねぇ。あの子ならほっといても女子の方から勝手に寄ってくると思うけど、あの子は愛されるよりも愛したいタイプなのね。理想を追い求めすぎて苦しまなきゃいいんだけど。あとハンジール、暑苦しいから筋トレするなら自分の部屋でしてちょうだい」
「しょうがねえなぁ。お前も筋トレしてみればその素晴らしさがわかるはずなのによ」
注意されたのを受けてハンジールは大部屋を後にする。二人の言葉の真意は眼帯の男にはわからなかったが、飲み干したビールに代わり新たに別の缶ビールを開けようとするが……。
「ちょっと待ってゴーダちゃん、あたしカクテルを作ってくるから待っててくれるかしら」
「お、そいつは楽しみだな。一番いいのを頼む」
一方でカルネロと帯刀した長髪の男は地下にある巨大な部屋で濁った液体が底に少しだけたまった巨大な筒状の透明な容器を見つめていた。
「この前と今日だけでこの量だ。たとえ今回失敗したとしても、このペースなら復活は近い」
「だが、振袖小町は早いうちに消した方がいいのは事実では?」
「そうだな。まあ、君たちの頑張りには期待しているよ」
そう話しているうちにも、一滴、また一滴と液体がたまっていく。その様子を見てカルネロは不気味な笑みを浮かべるが、長髪の男はどこか寂しげな眼をしていた。
会議を途中退席したプチッツァは、自分の部屋でベッドに寝ころんでいた。
「ふん、自分だけ逃げるだなんてできないなんて、あいつ、あんなもんのために本気になっちゃって……。仲良しごっこなんかしちゃって、バッカみたい」
昨日さくらに言われたことを思い出し、憂鬱気にしていたところを、ドアをノックする音がかき消す。
「今、大丈夫ですか?」
メガネの青年の声が部屋の外からこだまするが、彼女はドアを開けようとはしなかった。その様子を見て彼は黙って立ち去るも、心中は穏やかではなかった。
「時間が解決してくれることばかりとは限らないのが世の中です。彼女が僕のようにならなければいいんですが……」
メガネの青年が独り言を言っていたところに、肩を叩かれる。
「なにぶつぶつ言ってんだ?」
「セルペンテですか。何の用です?」
「聞いたぜ、スキロス。お前も過去にいろいろとあったみてえだな」
そういってセルペンテと呼ばれた目つきの悪い男は自分の過去を語り出し、それを聞いたスキロスの顔はみるみる青ざめていった。
作品の魅力を引き出すのは悪役だと肝に銘じて執筆しております。




