第弐拾幕の参
もしも試合が見れたなら。
登校したさくらと水崎兄妹は、蓮が退院したことをクラスの面々やこれまで小町部としてかかわってきた生徒たち、それに顔見知りの運動部員らから退院を祝われたが、主にくるみをはじめとするガチ恋勢を中心に両手が塞がってしまうほどのお菓子や飲み物をもらったことにあおいが彼女たちに敵対的オーラを出して一触即発になりかけたことを除きいつも通りの日常が始まる……と思われていたところに、浮かない顔をしていた者が一人いた。
「あの人は?」
さくらの質問に蓮が答える。彼は2年D組の越中玄太。テニス部所属。かつてオリエント・ゾディアックと手を組んでズウォートと名乗り振袖小町と対峙した片桐学や、柔道部の麦倉一之とは同じクラスで友人である。彼らの先輩にあたり、片桐の罠にはまり一時は部を追われるも後に部長として復帰できた稲田隼人の貴公子然としたプレイスタイルとは真逆の泥臭さを持ち味としたテニスで部内の実力者の一人として名前が挙がる存在である。
「よう、どうした? お前らしくないな」
蓮が気さくに話しかけると、彼は一枚のフライヤーを見せてくる。内容は海外から人気と実力を兼ね備えたプロレスラーが来日し、国内の期待のホープとの一戦を繰り広げるプロレスの試合のもので、主催はかつてワイルド師岡が団体の顔として活躍していた超日本プロレスであった。彼はテニスと並びプロレス観戦も趣味としており、蓮はそれを過去にテニス部の助っ人をした際に会話して知っていただけに彼の残念がる姿に納得していた。
「対戦予定の二人がこの前どっちも闇討ちに遭って怪我して中止になっちゃったんだよ……。来日も済ませてただけに残念ったらないぜ」
せっかくの世紀の一戦になるはずだった試合が幻に終わってがっかりしている彼からチラシをしっかり見せてもらうと、対戦する予定だったプロレスラーは、アイル・ノーズとランディ萩山。不思議なことに両者とも死んだはずのワイルド師岡に襲われたと証言しており、もしやと思い二人のワイルド師岡との関係を尋ねると、ノーズは彼にリング禍が起こった際の対戦相手で、萩山は同じ超日本プロレス所属で彼の愛弟子ともいえる存在であったという。しかも、ここ最近まことしやかに語られているワイルド師岡の亡霊が事件現場近くで目撃されたと語っていた。
屈強なプロレスラーを二人も病院送りにできるのは、病を除けば相当な強者しかいない。そう思った蓮はワイルド師岡、つまりハンジールが何らかの活動をしていると推理した。こうしてはいられないと授業が終わり次第彼を追うことになった。
本来ならばとっくの昔に命を落としていたのが、特殊な振袖のカケラによる力で仮初の命を新たに得た一人の少女は、体内に宿された振袖のカケラの内なる声から「振袖のカケラを集めれば今存在している世界を理想の世界に創りかえることができる」と聞き、同じ境遇の他の11人の老若男女とともに「オリエント・ゾディアック」を結成した。
だが、力を求めるあまり功を焦った結果自らが最初に仮初の命を手放す結果となった。そんな彼女、コードネーム「プチッツァ」こと鳥羽ひかりの魂は天界をさまよっていた。
「ここは……?」
天界ではたくさんの人々がある者は友人同士、ある者は家族同士、親しい間柄の者たちが水入らずで時を思い思いに過ごしていた。
しかし、彼女には目に映った光景に対比するかのようにこれまでの生涯を振り返り、自分にはそんな相手など生前はもちろん死後となった今も一人もいない、そして未来永劫現れることはないことから自分には一切関係ないという目で眺めていた。そもそも、主にオリエント・ゾディアックのメンバーとしての自分がやってきたことを考えればここにいるのは何かの間違いで、本当は別の場所にいるべきだとすら思っていたくらいだった。
だがそこに、彼女の名を呼ぶ男女の声が聞こえてくる。
「「ひかり!!」」
実在する団体に新日本、大日本、全日本があるからそれっぽくするには超しかないなと思って超日本プロレスを立ち上げました。




