第弐拾幕の壱
平和が戻った……?
「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
ある病院の分娩室に、生まれて間もない赤ん坊の産声が響き渡る。出産した母親と、見守った父親、そしてその間にできた愛の結晶は、産婦人科医と助産師から大きな祝福を受けた。今日から少しずつ、元気にすくすくと成長していく小さな命を両親は見守っていく、はずだった。
「世界を創りかえる」ことを求めて強大な力を得て暴走したプチッツァは、振袖小町、とりわけさくらの獅子奮迅の活躍によって鎮静され、力を使い果たした彼女は全身にひびが入って砕け散るように消えていった。残ったのはのぞき込むとはばたいている鳥の姿が見える振袖のカケラだけだった。
戸籍や住民票がなく、世間的に死んだものとされているオリエント・ゾディアックの面々にとって廃研究所が焼け落ちたことは、組織としての本拠地であると同時に自分たちの住居を失ったことを意味していた。野宿するわけにもいかないため素性を隠してネカフェなどで寝泊まりしてやり過ごした。焼け跡では、誰もいなくなった隙にある影の手によってエリーが身に纏って戦ったもののプチッツァに敗れ、パージされ大破したNEWキモノを構成していたパーツをすべて盗み出していった。
激しい戦いから数日が経過し、振袖のカケラは通常ならイナリの額に当てて衣桁に転送して回収できる。しかし今までとは違い、彼女の体内にあったものだけは額に当ててもその場に残った。何度試みてもそれは変わらず、本来ならば命を落としているはずの者を蘇らせたほどの力を持つだけあって違った反応をするのも無理はないという結論に至り、戦いに勝利したさくらが持つことになった。
現在彼女は、自分の部屋で憂鬱そうな顔をしながらそれを親指と人差し指ではさんで持ち、角度を変えては戻し見える色を変える、を繰り返していた。
「振袖のカケラ……」
自分たちに振袖小町として戦う力を与える、ネガボットという名の怪物を生み出す力の一部となる、それ以外にも本来であれば起こるはずがない現象をもたらす力を持つ代物だが、その中でも「死者を蘇らせる」という自然の摂理に反する現象すらやってのける力を持つこれをどう扱う、あるいは管理するべきか長考している間に、ふと時計が目に入る。我に返ったさくらは振袖のカケラをイナリに預けてから慌てて登校の準備をして外に出る。
家の前ではいつものようにあおいと蓮が待っていた。プチッツァとの決戦の日の時点で退院までそう日はかからないと言われていた蓮の体は順調に回復が進み、昨日退院できたばかりだ。
さくらが出発後、イナリは彼女の部屋でプチッツァの体内にあった振袖のカケラに手を当ててみると、鳥羽ひかりとして過ごした生涯が彼の脳内に走馬灯のように流れ始めた。
本拠地に大きな損害が出たこともあり、あれからオリエント・ゾディアックは一切の動きを見せず、ひと時の平和が訪れていた。
振袖小町として戦う前と変わらない日常が戻ってくる、さくらはそう思いながら登校していたが、どこか後ろ髪を引かれていた。彼女たちが道に立ててある掲示板の前を通った直後、貼ってあった1枚のポスターがはがれ、風に乗ってどこかへと飛んでいった。
まだこの一件、終わってません。




