第拾玖幕の捌
出会いは突然に。
「お前は……振袖小町の!」
肩で息をしているさくらであった。彼女の表情と真剣さがこもっている目から、思惑が一致していることを悟る。
「プチッツァのとこに行くんだな」
さくらは頷く。しかし今いる場所からでは徒歩での移動だと時間がかかり、自分以外を連れてのワープはできないことと、それを抜きにしても目的地の内部で起こる可能性が高いとにらんでいる懸念事項があることを説明する。
大きな壁が立ちはだかりどうすればいいか困り果てていたところを、人間の自由と平和を守るため戦うヒーローが乗るようなやたらと目立つ一台のバイクが止まり、二人の女性ライダーがヘルメットを取って声をかける。
「あら、火宮さん。もう大丈夫なの?」
「桃ちゃん先生、笹山先生。おかげさまで心も元気になりました。外出許可も出てます」
病院のスタッフに追われたことは伏せてはいたが、捕まりはしたものの結果的になんとか外出許可をもぎ取ることに成功した。だから後ろ暗さもなく外を歩けていたのだ。
「それはよかった、でも、無理はしちゃダメよ?」
心配が晴れてほっとしたのもつかの間、いつもよりも声が弾んでいる桃香が彼女と一緒にいる長身の目つきの悪い男について質問する。
「ねえ、この人は?」
「あー……知り合い、と言いますか……」
一言では説明のしようがない複雑な関係性をぼかさねばならないことからうまく説明ができないところに、セルペンテは二人が乗っていたバイクに目をつけ、長い間ポケットに入れっぱなしだった免許証の有効期限を確認してから声をかける。
「あんたら、こいつの先生か。俺はこいつとはちょっとした知人だ」
さらっと自分たちの関係を嘘にならない範囲で簡潔に説明したセルペンテに、彼の意外な一面を見たと目を開く。セルペンテは彼女のことなど気にせず百合が乗っていたバイクを品定めしていた。
「あんた、なかなかイカしてるバイクに乗ってるじゃねえか。俺もバイク乗るからわかるけど、いい車種だよな」
「ありがとうございます。昔彼と一緒にカスタマイズした愛車で、リリーワイバーン号って言うんです」
名前を聞いてセルペンテはある人物が浮かぶが、今はそれを詮索している場合ではうえにきっと偶然だろうと思いすぐ本題に移る。
「お、名前もかっちょいいじゃん。そういうの、俺は好きだぜ。突然なんだが、こいつと一緒に今すぐ行かなきゃならない場所があるんだ。無理な頼みだとは思うんだが、そのイカしたバイクを俺に貸してもらえないか?」
つっけんどんな言い方で突拍子もない頼みに、思わずポカンとしてしまう教師二人。それぞれの正体を明かさぬよう口裏を合わせ、刻一刻を争っている今の自分たちが置かれている状況などを説明する。少なくとも互いに恋愛感情はない、ましてややましい関係でもないことは理解してもらえたようだ。
二人は相談し、教え子のピンチであること、情にほだされたこと、愛車を誉められたこと、そして何よりも彼は口も悪く不愛想だがどうしても悪人だとは思えなかったことを理由に、リリーワイバーン号の貸与を許可した。ただし、メンタル面で病み上がりであるさくらは決して無理をしないと約束することと、名前も言えないような得体の知れない相手に貸すことはできないから可能な範囲で身元を明かすことが条件になり、オーナーである百合が彼の名前を尋ねた。
「名前? セル……いや、錦織だ。錦織淳」
「私は笹山百合、でこっちは……」
「は、はじめまして、白川桃香、です。ひ、火宮さんのクラスの担任をして、ます」
桃香の自己紹介はとても教職員であるとは思えないくらいにぎこちなく、声も上ずっていた。
何はともあれ自己紹介を済ませて返却先となる百合の連絡先を聞いてから、バイク、キー、ヘルメット、そしてさくらはグローブを桃香から借りる。セルペンテは慣れた手つきでエンジンをかけてヘルメットをかぶる。さくらもヘルメットをかぶったことを確認した後、バイクに乗ったことのない彼女に簡単にタンデムでの乗り方を教えてから出発する。
「しっかり捕まってろよ、かっ飛ばしていくぜ!!」
さくらは言われた通りに両手でしっかりとグラブバーにつかまり、セルペンテがアクセルを踏む。そこから導き出された久しく味わっていなかった感覚に彼は懐かしさを覚えながら、記憶を頼りに決戦の地へと駆け抜けていった。
どうやら春が来たみたいだけど、幽霊は対象外って言ってたから大丈夫かなぁ?




