第拾玖幕の漆
戦場以外でも物語は動く。
ワイルド師岡を輩出したことで知られる超日本プロレスの道場では、強くなって勝利と栄光をつかむため多くのプロレスラーたちが汗を流し、己の体を鍛えていた。
エントランスの扉を乱暴に開く音がトレーニングルームに響く。
「なんだ?」
「俺、見に行ってきます」
チェストプレスマシンを使って筋トレを行っていた駆け出しのレスラーが立ち上がって様子を見に行く。
「あ、あなたは……!」
現れた人物の顔に驚きを隠せないレスラーは、カタログスタンドや植木などをなぎ倒しながら前進していく彼を止めるべく果敢に立ち向かうも、簡単に払いのけられてしまい壁に叩きつけられてしまった。
その足で、彼は奥にあるトレーニングルームに向かった。なぎ倒されたレスラーは満身創痍ながらも必死で腕を伸ばし、去っていく彼の脚をつかもうとするがかなわず、そのまま意識を失う。
かんなに声をかけられたキマだったが、ここに救急車を呼ぼうにもこの廃研究所にはこの一帯には振袖のカケラを持たない者は入れないように結界が張られているから不可能だと断られてしまう。だが、代案は出してもらった。
「ついてきなさい」
キマはエリーを背負ってからかんなを連れて気配を消し、廃研究所の裏に回って裏口から中に入る。しばらく中を進んでいき、自分の部屋に案内する。そして自分のベッドにエリーを寝かせる。
「横になるだけでも全然違うはずよ。それに、あんたたちの仲間はまだいるでしょ? その子が来ればあんたたちの力であの子に勝てるはずよ」
実際に振袖小町が使う水、土、木の力をコピーして使った経験がある身であるキマは、それら3つだけではどこか不安定さがあると感じたという。
「見たところ訳ありみたいだけど、あんたがあの子の友達だって言うなら、誰に何と言われようが絶対に来るって信じなさい。あたしは外に戻るけど、どうする? ここで見守るか、外で説得するか。決めるのはあんただからあたしの知ったことじゃないけど、後悔しない方を選ぶことね」
「あたしは……」
部屋の窓から見えたのは、プチッツァが空中にとどまりながら、地上に向けて羽根を降らす光景だった。その勢いはとどまることを知らない。アイリスとかりんが戦列に加わったところで、形勢逆転ができるとはおよそ言える状況ではなかった。さくらが来ることを信じ、そして自分がプチッツァを説得すると心に決め、キマの後を追いかけた。
「さてと……いろいろやべえことになってるっぽいから、真打が駆けつけるとしますか。……ちょっと待て、これ……」
ロンから通信を受けたセルペンテは、廃研究所へと向かう決意をする。だがここで、送られてきた現場の映像をもう一度見返すと、廃研究所の上部からうっすらと煙が立っていることに気づいた。
「……急ぐ必要があるな」
廃研究所に行くだけなら振袖のカケラ探知機「MUJINA」を使ってワープするのがすぐさま行ける最短最速ルートになるが、それでは施設内に着いてしまい自らの身に危険が降りかかる。ひょうきんな面が目立ち、どこか抜けてるところが散見される三枚目が、いつになく真面目な顔をし出した。
「……だが、どう行くんだったかな……。それにここからだとかなりかかりそうだ……」
これまで彼は出撃の際はずっとMUJINAに頼りきりで、廃研究所がある場所がどこか忘れてしまっていた。幸い住所は覚えていたがここからどう行けばいいのかはわからなかったがやはり決めるべき時に決まらない彼が目指すべき場所へ駆けようとした、その時だった。
「待って!」
聞き覚えのある声が彼を呼び止め、振り向くとそこにいたのは……。
真打や主役は遅れてやってくる、セルペンテの言う通りですね。でもそれが誰のことかは……わかるよね?




