第拾捌幕の拾伍
決戦の幕開け。
プチッツァによってどこかへ吹き飛ばされたスキロスは、土地勘の全くない町で目を覚ました。さまよいながら今自分がいる場所がどこなのかを街頭の掲示板などで確認し、どうやって廃研究所まで帰るかを模索していた。すると、彼のすぐ近くを強烈な一陣の風が通り抜ける。何事かと振り返ると、車道をとてつもない速さで走り抜けていった一台の車の後ろ姿を目撃する。一瞬だけ見えたナンバープレートに書かれていた番号は、彼の脳裏にはっきりと焼き付いていたものだった。
「あの走り方、あの車種、それにあの番号……! ふふふ、けりが付くまでは死ねないと思いましたが、その通りだったようですね……」
吹いてきた追い風を背に受けながら、スキロスは帰路を進んでいった。
鳥羽ひかりという名の一人の少女の壮絶な生涯、そしてそのあまりにも寂しい最期を本人の口から耳にしたかんなは、ひかりをぎゅっと抱き留めていた。その体は冷たく、生きた人間のそれと違う感覚がしたが、根拠こそないが心の温かさは体の奥底からまだ残っていると感じていた。
「なんなの……? あんた今までの話聞いてた!?」
「あなた、すっごいいい子だよ。あたし、あなたみたいな友達がずっと欲しかった。これから、友達になってくれるかな?」
ひかりから離れたかんなは、握手を求めるように再び手を差し伸べる。しかし、彼女の選択は……。
「出撃!」
研究施設の屋根が開き、エリーが小袖とハイヒールからのジェット噴射を推進力にして研究施設の研究員たちに見送られながら目的地である廃研究所まで飛んでいった。その直後、本橋にある人物から着信が入る。浮かない顔をして応答し、相手が話す内容にひたすら肯定していた。
「(お嬢様、もう少しの御辛抱です、すぐ参ります……!)」
彼女及びあおいとティーガーの目的地であるオリエント・ゾディアックのアジト、廃研究所の会議室では、アイリスとかりんがゴーダ、キマの攻撃を受けて防戦一方に陥り、力尽きるのも時間の問題となっていた。一方ロンはただ椅子に座って行く末を見守っていた。
「あんたたち、もう諦めなさい。この世界はもうすぐ滅びるんだから、おとなしくその顛末を見届けなさい」
「無駄な抵抗はやめるんだな!」
だがそのとき、部屋の外から大きな声が響く。
「ふざけんじゃないわよ!!!!」
その直後、イナリが苦しみだしてその場でのたうち回る。
「イナリちゃん!?」
「ううっ!! 頭が、痛い!!」
一度戦いを止め、かりんがイナリを抱えてから全員が何事かと部屋を出て外に向かうと、声の主が6枚の羽を広げて廊下を猛スピードで滑空し、廃研究所の上空に飛び上がるとそこから火、水、土、木の力を目に映った相手めがけて無差別に放っていた。
「みんないなくなれ、みんないなくなれぇぇぇ!!」
怒りで我を忘れている彼女を止めるべくロンが刀を構える。ゴーダは武器を取りに自室へと走り、キマもやれやれと言わんばかりの表情で加勢する。
もといた方向に振袖小町陣営が向かうと、ドアが破壊された部屋があった。
中に入ると、部屋中に散乱している黒、赤、青、黄、緑の羽が体の上に1枚ずつ乗った状態で気絶していたかんなと、床に落下してガラスが割れた写真立てだけがあった。
「かんなちゃん!」
「かんな、大丈夫!?」
二人に揺り起こされたかんなが目を覚ます。
「……アイリス、りんりん、イナリきゅん……! そうだ、ひかりは……!?」
かんなは傷ついた体をなんとか起こすも、自分のことよりもたった今まで対話していた相手がどこにいるのかを心配していた。
「ひかりって……プチッツァのことだよね?」
「今外で暴れてるけど、何かあったの?」
「それが……」
彼女の口から、ここまでの経緯が語られる。彼女の正体と壮絶な過去、そしてこの状況に至ったきっかけにアイリスとかりんは戦慄した。そしてイナリは今もなお頭を襲う激しい痛みと、この危機的状況、物理的と精神的の両方の痛みに苦しんでいた。
6枚の羽を持つ少女、プチッツァ。彼女の願いとは?




