第拾捌幕の拾壱
壮絶な過去、またもや。
半年前の運命の日。
事務所が契約していたアパートから立ち退きを余儀なくされ、かぐやは失意の元フリージアに帰ってくる。正門の前で、ひかりは出迎える。
「おかえり。今まで大変だったね」
かぐやは何も言わず、左手でひかりの手を取って二人で施設の屋上へと向かう。もう片方の手は握ったままだった。ここは二人にとって一番落ち着ける場所で、お互いのことを話すほか、互いの秘密や悩みを打ち明けるといったときにいつも来ていた場所である。
屋上でひかりはこれまであった大変だったことや辛かったことなどを一切合切聞いて慰めるつもりであり、実際途中まではそうなったのだが、かぐやが一通り話を終えたところで態度が急変する。
「……ねえ、あんたの両親って確か死んでたよね?」
鼻に付く言い方をされ違和感を覚えるも、ひかりはゆっくり首を縦に振る。
「……そっか……じゃあ私の苦しみなんてわかるわけないよね……!!」
かぐやは態度を急変させ、ひかりの掌に爪を立てて指を押し当ててきた。
「いたっ! 何するの!!」
ひかりは痛みで手を引っ込めるも、彼女の腕は顔に向かって伸びていく。それを払いのけると攻勢は強まり、ひかりは立ち上がって逃げようとする。
しかしかぐやは逃げることを許さず屋上を追いかけまわす。フェンス際に追い詰められたひかりは、これまでに知る限りの今までの彼女からは信じられない言葉を浴びせられる。
「確かあんた、フリージアに来るまでは親戚中たらいまわしにされたって言ってたよね!? それってさぁ、あんたの親戚はあんたのことなんて何とも思ってなかった証拠だよね! 高砂先生は優しいからかわいそうなあんたのことも見捨てないで引き取ってくれた、お情けってやつ、わかる!?」
「かぐや、やめ……」
「なに気安く人の名前呼んでるの? 黙っててもらえる?」
ゴミ箱にぶちまけるように罵詈雑言を浴びせながら、暴行を加え続ける。心なしか、右手から繰り出されるパンチの威力が心なしか他よりも強く感じていた。
「つまり、あんたは私と同じでみんなからいらない子って思われてるの! それなのに健気にいい子ちゃんぶっちゃって! 報われるわけでもないのに! そういう態度が前からずーっと気に入らなかったの!!」
かぐやの気が済むまで罵られ、殴られ、耐えよう、そう腹をくくったときだった。彼女の右手の拳のから虹色の光が放たれ、その拳から鳥の形をした光弾が発射されて屋上のフェンスを突き破った。人一人くらいであれば簡単に落ちてしまうほどの大きな穴がぽっかりと開いた瞬間だった。
今ならその光の正体がわかるが、当時は何が起きたのかわからず呆然としてしまった。それは穴を開けた側も同じだったようで、ほんの一瞬だけ彼女からの攻撃に隙ができていたが、まだかぐやを親友だと信じていたひかりは逃げなかった。しかし、その一縷の望みははかなくも砕け散ることとなる。
「もう仲良しごっこは今日でおしまい。それと、最後にあんたにプレゼント」
かぐやはひかりの体を服ごと右手で乱暴につかむ。
「誰からも生まれてほしいとも思われなかったのに生まれてきちゃったあんたは……人間の失敗作なの!!」
腹の底から叫びながら、かぐやはひかりを穴から地上へと突き落とした。その勢い余って、彼女が手に握っていた光源も後を追うようにこぼれ落ちていった。
友達だと思っていた相手からの裏切りはどんな刃物より鋭く刺さる。




