第拾捌幕の拾
皆さんには細かすぎて伝わらないモノマネのレパートリー、ありますか?
ラパンにテレビ番組の出演者とスタッフを人質に取られ、「細かすぎるモノマネ」をすることをなかば強要された立場にあるかりんは、熟考の末に誰もわからないであろうネタを思いつき、彼女に準備ができたことを伝える。
「じゃあ初めて。じゃんっじゃじゃっじゃん」
「細かすぎるモノマネ」がテレビで放送される際にネタを披露する芸人が登場するときにかかる出囃子ともいえるSEを口ずさみながら、どんなネタを目の前で披露するのか期待するラパン。だが、その内容はあまりにもまさかの内容と言えるものであった。
「野外ステージの端っこで目立たない立ち位置に割り振られても、全身全霊で歌とダンスのパフォーマンスを見せた結果奇跡の一枚が撮影されたDianthus from.JPN時代の因幡卯月ちゃん」
あの頃の記憶がよみがえってくるようだった。
結成して間もないグループに加入して芸能界デビューしたはいいものの、無名の事務所で強力なパトロンもいないがゆえに会場はいつも雑居ビルの地下にある小規模なライブハウス、もしくは郊外にあるショッピングモールの吹き抜けにあるステージだった。
ライブハウスであれば少ないながらも固定ファンを獲得して彼らが健気に現場に参戦していたがショッピングモールでは開催したはいいが足を止める客が皆無なんてことは珍しくなかった。運よくメンバーのうちの誰かが週刊誌や漫画雑誌にグラビアで掲載されても巻末の数多くのグラビアアイドルがいる記事にいるその他大勢が関の山、読者からの反応は芳しくなく、どこかしらに爪跡を残せたとは言えないうだつの上がらない日々が続いていた。
グループで掲げていた「全国ツアー」、「年末恒例の歌の特番に出演」、そして「武道館公演」という壮大な目標など夢のまた夢というのも生ぬるいくらいに届く気配すらなく、ほんの数年前の誰からも注目されてなどいなかった「まだ何者でもない」時代の自分をお題にされ、ましてやその時代のことを振袖小町、しかも自分がライバル視している木谷かりんが知っていたことは彼女にとって青天の霹靂としか言いようがなかった。そして、解散するその日まであらゆる場所での誤表記や呼び間違いが目立った所属していたグループ名まできちんと間違えずに正式名称で言ってもらえたことに対しては、もはやこの時点で感激すらしていたほどだった。
「私たちはジャンヌ・ダルク 道は自分で切り開く 乙女たちよ いざ進め新たな時代へ」
かりんによるモノマネは後に世間から「奇跡の一枚」と呼ばれる写真が撮られた振り付けに差し掛かる。奇跡の一枚は知っていても、余程のアイドルマニアでもない限り知らないであろうかつての自分の持ち歌を歌詞の一字一句どころか音程や振り付けまで一切間違えずに完コピするかりんの姿に、いつ果たせるのかもわからずゴールが全く見えない目標に向けて仲間とともにただひたすらにがむしゃらに努力を続けていたかつての自分たちが重なり、感動のあまり声も出なかった。
かりんはBメロから奇跡の一枚の振り付けが入るサビを最後まで歌い、モノマネを終える。本来であれば番組でネタの披露が終わると舞台の床が割れて落下するのがお約束だが、それ用の舞台に立っているわけではないためそうはならず終わっても彼女は戸惑っていた。だが、ラパンは拍手していた。
「(え、ウケたの……!?)」
絶対にわからないだろうと思いかなりの賭けとしてネタをやっていた側からすれば、いい意味で予想外の展開。こちらにも青天の霹靂は訪れていた。だが、人質の無事が確保できたことに変わりはなく胸をなでおろした。
ラパンはかりんに歩み寄り、嬉々と声をかける。
「面白かった……というより、感動した。約束だからここの人たちも解放する。あと、プチッツァの場所だけじゃなくて、いいこと教えてあげる」
ラパンはそのままかりんの横に回り込み、耳打ちする形でプチッツァの居場所と、「いいこと」を告げる。その内容に、かりんはこれまで行われてきた戦いとは何なのかを考えさせられた。
ここまでやってしまってはラパンの元ネタはもう明言しているも同然ですね。




