第拾捌幕の捌
一人で何かを成し遂げることはかなりの困難。
振袖小町になれないさくらは一体何がダメなのかわからず、もどかしい気分のままあおいたちの帰還を待っていた。そこに、幹夫が優しく諭し始める。
「さくら、落ち着いてよく聴きなさい。さくらが誰も傷つけたくないという気持ちはよくわかる。さくらは昔から優しい子だからね。でも、考えてみてほしい」
祖父だけあって、火宮さくらがどういう人物なのか理解した状態で幹夫は語り掛ける。
「あおいちゃん、アイリスちゃん、かりんちゃん。それに、蓮君にかんなちゃん。そして、イナリ君。さくらにはこんなにたくさんの友達であり、仲間と呼べる存在がいる。それは素晴らしいことだ」
名前が挙がったかけがえのない仲間たちの顔、そして振袖小町になってから縁あって関わってきたたくさんの人々の顔がさくらの頭に浮かび上がってくる。
「今までずっと独りで戦ってきたわけではないだろう? なぜなら、ここまでの道のりの中には、さくらだけでは無理だったことも絶対にあったはずだ」
不服ながらも事実なことに変わりはなく、さくらは黙って首を縦に振る。
「それにさくらは前に『みんなで戦うってのもいいね』って言っていたね。昔の振袖小町が独りで戦っていたのなら、今の振袖小町は互いに補い合って戦う。それぞれの力を一つに合わせれば、不可能なことも可能にできるはずだ」
その後も幹夫は優しく語り掛ける。その内容は、過去に実在した振袖小町と、それにまつわる苦悩についてだった。
江戸時代に振袖小町となり、今も物語として語り継がれている少女は、江戸の町に魔物が現れたらその都度倒し、だんだんとその名が広まり出していった。
しかし、それは彼女にとって風評被害の始まりでもあった。町が襲われ安心できない日々を送る一部の町民から「振袖小町がいるから町が襲われる」、「自作自演ではないのか」という疑惑が広まり正体が知られずとも彼女の心は少しずつ荒んでいってしまっていたという。
そして魔物を操っていた男との決戦の日、今日こそ決着をつけるという意思のもと出陣したが、その後は周知のとおりである。
「時代が違えど、誰しも悩みはある。どうしても独りで戦うというのなら、私は止めようとは思わない。しかし、あおいちゃんたちはさくらがそう決意してしまうくらいそんなに頼りないのかい?」
この一言に、さくらは返す言葉がなかった。病室を出ていく幹夫の背中を見て、自分が今どうすべきなのかを冷静に見つめ直し始めた。
廃研究所のプチッツァの部屋では、なんとガールズトークが展開されていた。はじめはかんなが喋っている内容を右から左に受け流しながら神妙かつ適当に相槌を打っているだけだったのだが、彼女の何も包み隠さずに飾り気なく話す姿に影響され、だんだんとであったが彼女に心を開いていき、彼女からの発言が少しずつ増えていき、雑談にどんどん花が咲いていったのである。
「でね、お父様ったらこっちの気も知らないで勝手にお見合いのセッティングとかしちゃうんだから、ほんとやんなっちゃう」
「好きでもない以前に会ったことも話したこともない相手と!? そんなのないない! ましてや付き合うなんてありえないよね」
これまで見せてきた「プチッツァ」としてではなく、「鳥羽ひかり」としての彼女がだんだんと見えてくる。これはかんなが彼女に真剣に向き合って話していった結果であり、ここまで心を開くには時間を要したが彼女も素顔は普通の女の子なんだと感じていた。そう感じたうえで、かんなは核心に触れる質問をぶつけてくる。
「ところで、話したくないならいいんだけど、ひかりはなんでオリエント・ゾディアック……だっけ? にいるの? 理由あって、悪者?」
問われた途端、プチッツァが怪訝な目をして問いかける。
「……後悔しない?」
「しない。あたしはもう、誰かに守られているだけのお嬢様じゃないから」
意を決して、彼女はなぜ今振袖のカケラを巡る戦いに身を投じているのかをゆっくりと語り始めた。
遂に、鳥羽ひかりという人物の過去が明かされる、待て次回!




