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華のお江戸の振袖小町  作者: 水虎
第拾捌幕「天使」
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第拾捌幕の参

そういえば桃ちゃん先生たちはどうなったの?の答えはこちら。

 一人部屋の病室で、焦点の合わない目でぼーっと天井を見つめながら、さくらはベッドに臥していた。「ボランティア先でオリエント・ゾディアックが起こした事件に巻き込まれ負傷した」と話を聞いた彼女の両親が面会に来訪し、彼女に励ましの言葉をかけてから病室を出る。

 それから入れ替わるように桃香と百合が見舞いに来訪する。桃香はフリージアの子どもたちは全員無事に避難が完了し、今は近隣の施設を間借りして元気に過ごしているという報告をさくらにしてから、引率者として事件から生徒を守れなかったことを詫びる。子どもたちの無事には安堵したさくらだったが、謝罪に関しては真実を言えないうえに桃香たちにとってはどうすることもできない事件だったことから形式上のものとして受け取ることにした。そして二人は、同じ小町部で今回甚大な被害を受けた蓮の病室へと向かっていった。

 その道すがら、百合はどうやって子どもたちをたった一人で助けることができたのかと桃香に尋ねる。

「うーん、そのことなんだけど、実を言うと私一人で、じゃないんだよね」

 桃香はそのとき起こったことを不思議そうに語り始めた。なんでも、火災からの避難誘導に追われ、子どもたちが全員避難できたことを確認してから最後に自分が避難しようとしたら逃げ遅れそうになっていた少女が1人いたことに後から気づき、助けに行こうとしたが体力的に難しいと感じ万事休すかと思ったところに、非常口側から子どもたちの歓声が聞こえてきた。

 同じ方向から現れたのは1人の大男で、少女を見つけると何も言わずに軽々と肩に担ぎ救出する。桃香が礼を言おうとしたときには彼は姿を消していた。子どもたちによれば、大男はリング禍で無念の死を遂げたワイルド師岡に間違いない、理由はともあれ彼が帰ってきたというのだが……。

「それ、あなたが待ち望んでる運命の出会いじゃない」

 一通り話を聞いた後、百合はワイルド師岡のことをスマホでざっと検索し、リングでの彼の写真などを見せながら茶化す百合に、桃香は苦笑いしながら返す。

「うーん、マッチョすぎてちょっと……」

 調べていくうちに、彼が試合中の事故で命を落としていたのは紛れもない事実であったことがわかる。しかも、都内の各地で彼の幽霊を見たという情報がいくつも飛び交っており、桃香は自分が見たのは幽霊ではないのかと背筋が凍ってくる体験を時間差で味わっていた。

「マッチョ以前に幽霊は恋愛対象外かな……」

 だが桃香が目撃した彼は子供を担ぐことができた上にちゃんと足もあった、体が透き通ってもいなかったと俗に言う幽霊の特徴と合致していないことが謎を呼んでいた。

 桃香と百合が病室を離れてからしばらくして、別の面会者が尋ねてくる。

「さくら!」

 幹夫とアイリス、そしてイナリが入った籠を持っているかりんだった。あおいは後から合流するとあらかじめさくらに連絡がされてあった。

「話はあおいちゃんたちから全部聞いた、あの時のことがこんな形で……わかってやれなくてすまなかった」

 事実を聞かされた幹夫はただそれだけ語り、アイリスとかりんに主導権を譲る。

「昔何があったのかはあおいちゃんから聞いてた。デリケートな話だし、口止めされてたとはいえ、黙っててごめん」

「もし同じことが自分の目の前で起きたらって考えたら絶対怖いし、思い出したくないよね」

 事実、さくらの目の前で起きてしまった愛する人が自分を庇い轢き逃げに遭い帰らぬ人となった惨劇を起こした暴走車及びその運転手の足取りは、警察による懸命の捜査の甲斐なく未だつかめておらず、今も捕まっていないことも彼女にとって重くのしかかっていた。

「私、怪我したときのことは今でも時々夢で見て嫌な気持ちになることあるから、お互い少しずつ乗り越えていこう」

「それは私も同じ。私もあいつらに前にされたことがフラッシュバックすることあるし、誰だってトラウマはあるから」

 言葉をかけるアイリスとかりんに、さくらは問いかける。

「……ありがとう。アイリスちゃんもかりんちゃんもつらかったことあったんだよね。それより、蓮は……? かんなちゃんは……? 大河くんは……?」

 蓮とかんなの現状について話すことなどアイリスとかりんにとってはとてもではないができず、大河という人物が以前話題に挙がった「三嶋大河」のことであるならばそれは尚更であった。

「なんで……黙ってるの? ……そっか、そういうことなんだ。また大事な人がいなくなるのか……。私って……無力だなぁ」

 薄ら笑いを見せるさくら。その声は自分の情けなさと現状の虚しさを嘆きながら病室に響いていた。

解決に時間が必要なこともある。

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