第拾漆幕の参
普段穏やかな人を怒らすとこうなる。
彼女は事故で幼い頃に両親を亡くし、親戚の手によって高砂が設立した児童養護施設「フリージア」に預けられて育ったのだが、そのフリージアに関して、ある噂を聞いたという。
それは商店街の蕎麦屋が店主の駒込にとって不本意な形で閉店させられ、工事が始まった頃のことであった。この一件に反社会的勢力が一枚噛んでいることを知ったエリーは、雑居ビルに構えていた事務所を訪ねた。
交渉をするも決裂、若い女一人だと高をくくっていた事務所の男たちは襲いかかるも全く歯が立たず、数人の男相手でも素手で軽々と対応し、凶器まで持ち出して再び襲いかかっても彼らはあっさりと返り討ちに遭う。
「な、なんだこの女……!?」
「もう一度だけ言います。花ヶ咲の商店街にあなた方が経営するタピオカ店を進出させる計画を今すぐ中止して、強引に買い取った土地を元の持ち主に返却しますか?」
男たちはだんまりを決め込む。
「それが嫌なら今から一緒におまわりさんのところに行きましょうか。答えないのであれば両方ということにいたしますが」
ゴーダと対峙したときと同じように、いつもの彼女からは想像もつかないドスの効いた声で発せられたこの言葉に屈した一人の男が投降、勝ち目がないと悟ったリーダー格の男が彼女の希望を呑むことを承諾した。だが、ここで新たな問題が発生する。
「ちっ、この前のガキの施設みたいにはいかなかったか……」
男のうちの一人が小声でつぶやいたのを聞き逃さなかったエリーは顔色を変えて彼に食って掛かる。
「今……ガキの施設と聞こえましたが……。あなたたちにはまだ用事があるみたいです、話を聞かせていただきましょうか」
リーダー格の男と最初に投降した男が焦った表情で口を滑らせた男を見つめる。
「その口は余計なことだけを口走るためにあるのではないですよね? さあ、早く言いなさい! 言え!!」
エリーは鬼気迫る表情を見せて口を滑らせた男の胸ぐらを強くつかみ、彼の頭を強くゆすり無理やり聞き出そうとする。
「く、苦しい……!」
「わ、わかった! 全部言うから放してやってくれ!」
エリーのあまりの迫力に身の危険を感じたリーダー格の男が詳細を話し始める。冷え切った目で彼らをにらみながらその話を耳にし、エリーはある決意をしていた。
「……というわけです。先生がこの話を御存知であれば必ず対応されているはず。しかし、調べてもそのような形跡が全くないので私が決着をつけようと思っており、それに際してお力をお借りしたいと思っています。ですが、子どもたちに怪しまれないよう皆様がボランティアで訪問する、という形で出向き、その間に私が捜査させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。もちろん、日時はこちらでセッティングさせていただきます」
男たちから聞き出した情報を話すエリー。創部以来初の大規模な活動ができることと、フリージアの危機を救う一石二鳥にして千載一遇のチャンスができた。話し合っているうちにもう花ヶ咲に到着、シルビコットの勝利祝いと、互いの成功を祈り岩淵酒店に立ち寄り満開市の後にみんなで飲んだ地ラムネで乾杯した。
彼女にとっては故郷のような場所だけにあくどいことに使われては怒りを前面に出しても無理はないですよね。




