第拾陸幕の拾伍
江戸っ子になった人のおかげで忘れてる読者はいないと思いますが、本来の目的をやっと果たします。
オリーブスタジアムに到着した小町部は、まず腹ごしらえからすることにした。アイリスとかりんが外周に停車しているキッチンカーの行列に並んでいると、シルビコットのユニフォームを着た強面な2人組の男が声をかけてくる。かりんは恐怖からアイリスの背に隠れるが、アイリスは笑顔だった。
「お嬢! お久しぶりです!」
男たちはアイリスのことをお嬢と呼び、一礼してきたことにかりんは目を丸くする。
「おうお前ら! 久しぶりだな! 今日はいつもと違う席だけど、魂はみんなと一緒だからよろしく!」
アイリスによれば彼らも熱烈なシルビコットのサポーターで、顔見知りで厳つい見た目をしているが気のいい奴らなのだという。
「こちらお嬢のお友達さんですか! よろしくお願いします!!」
「あ、どうも……」
普段であれば振り回す側であるかりんが恐縮してしまうほどの低姿勢ぶりであった。
高砂からの厚意という形で、スタジアムで合流したエリーから全員分のシルビコットのユニフォームが配られ、それを着て試合に臨む。さくらやかりんはアイリスのようにならないか心配ではあったが、最初に袖を通した蓮はいつも通りだったためさすがにそれはなく安心して袖を通した。
キックオフ後、それまで以上にボルテージが上がったアイリスの熱狂的な応援に、目の前にいるのは本当に自分たちが知っている土屋アイリスと同一人物なのかときどき疑問に思いながらもサッカー観戦を楽しみ、スタジアムグルメもおいしく味わった。
試合はエースストライカーである大崎による華麗なシュートなどが炸裂し3対1でシルビコットの勝利、彼がゴールを決めた際にサポーターが叫ぶお決まりのフレーズも小町部全員で叫んだ。
「「「「「「大崎半端ないってー!!!」」」」」」
後日、あおいと蓮が受けた仕打ちと迷惑行為を見聞きした二人の母は遂に堪忍袋の緒が切れ、この禍根を自分たちが断ち切らねばならないと自分の代である従兄弟たち、つまり登美の甥と姪たちを招集して緊急会議を開いた。
彼女が傍若無人なのは昔からなのは出席者全員が嫌でも認識していることではあるが、さくらへの一件で既に執行猶予状態だったのが見ず知らずの人相手はもちろん身内に対してまで暴行沙汰を起こしたのはもう見過ごすことができず年齢的にも認知症の可能性もあるとして強制的に検査を受けさせることで意見が一致した。
登美自身もかつて自分が女であることを理由に親の代から学業を諦めさせられた過去があるとはいえ、自分がされたことをそっくりそのまま親族にやり返すのは江戸の敵を長崎で討つを体現した逆恨みそのもの、かわいそうな人物でもあるが、そこに生来の無神経さと時代の変化を認められない順応性のなさが加わりそれぞれが相乗効果を発生させたが故の結果で、ここまで彼女が行ってきたことには一切同情はできないという結論に至った。
哀しき悪役ではあるが同情できない被害者、織部登美。モデルとなった人物には一泡吹かせたかったですがその前にくたばってしまったのでこちらで恨みを昇華させていただきました。




