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華のお江戸の振袖小町  作者: 水虎
第壱幕「再誕」
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第壱幕の拾壱

人と人の出会い、それは話が動くシグナルです。

笹山(ささやま)先生ー!」

「あら? どうしたの?」

 保健室の扉を開けたさくらに、メガネをかけた若い養護教諭、笹山百合(ささやまゆり)が声をかける。始業式で倒れた生徒のことを聞くと、無事回復してもう帰ったとのことで、胸をなでおろす。

 彼女が帰った後、百合はベッドに横になっている緑の髪をした小柄な少女に声をかける。

「居留守なんて、火宮さん心配してたけどいいの?」

「いいんです。その人友達じゃないですから」

 少女は拒絶するように答え、掛け布団を頭までかぶった。

 門を出て、一人で家路につくさくらは、昨夜寝ている時に見た不思議な夢について歩きながら考えていた。夢というものは目が覚めると普通ならば数分、長くても数時間は経てば忘れてしまうものなのだが、今回ばかりは今でも一部始終をはっきりと覚えていたため、違和感を覚えていたのである。

 白い着物を着ていた少女が、幼いころに祖父から物語として聞いた江戸を護った伝説の少女「振袖小町」を自分なりにイメージしていた姿にそっくりで、彼女が自分たちに対して語りかけていたような感覚がしたのだ。こんなことは今までなかった、いったい何だったのか、なぜあおいも全く同じ夢を見たのか……。考えれば考えるほど疑問がわき、この上なく不思議な夢に感じてならなかった。

 そもそも、「物語としての」振袖小町では、江戸の町で人々の負の感情から生まれた怪物たちが悪事の限りを尽くしていたところを、不思議な着物を纏った一人の美しい少女が倒し、江戸の平和を取り戻した、といういわゆる勧善懲悪の話である。祖父から幼いころに聞いた話ではその時点で物語は完結しているはずなのだが、夢での呼びかけが事実であるとすれば物語がまだ終わっていないということになる。果たして真実はどちらなのか。これもまた、新たな謎を作り出していた。

 解明の糸口がつかめないまま、謎だらけの夢のことを考えながら自分以外は誰もいない横断歩道で青信号を待つ。すると、今までに見たことがない小動物がさくらの横を通って車道を横切ろうとするのを目にする。しかし小動物が進む先にはトラックが走ってくる。さくらは赤信号であることも忘れてとっさに車道に飛び出し、轢かれる寸前だった小動物を車道にダイブする形で腕を伸ばし、間一髪のところで助けることに成功する。だが、急停車したトラックからクラクションが鳴り響き、運転席の窓が開く。

「おい! そこの姉ちゃん! 死にてえのか!?」

 窓から乗り出した強面の運転手の怒号に、必死で謝るさくら。トラックが走り去ってからさくらは大慌てでその場から走り去る。小動物も同じ方向に走るが、さくらはそのことに気づいていなかった。

 着いた先は、さくらの祖父が神主を務める神社である「伊吹神社(いぶきじんじゃ)」だった。だが祖父をはじめ神社で働いている人たちはみんな出払っていて、いたのは自分だけだった。ふと後ろを振り返ると、助けた小動物がいることに気づき、抱きかかえる。決死の覚悟で小さな尊い命を救った自分の行為にデジャヴを感じ、それがいつだったのか思い出せずさくらはもやもやしていたが、小動物の顔を見ているとそんなことは矮小なことだと感じ、深くは考えないことにした。

 小動物を抱きかかえたままさくらは物陰に行き、改めて自分が助けた小動物の前足の脇を持ち上げ、その顔をまじまじと見つめる。哺乳類のようではあるが体毛は白く、尻尾が9本もあるという不思議な姿をしていた。

「この子……かわいいけど何の動物だろう? キツネに似てるけど、動物園とか図鑑では見たことないな……」

「キツネだよ!!」

 どこからか聞こえる謎の声。その声の主が目の前にいることに気づくまでに時間はかからなかった。

ボーイ・ミーツ・ガールやガール・ミーツ・ガールはよくありますが、こちらは「ガール・ミーツ・フォックス」です。

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