第壱幕の拾弐
ガール・ミーツ・フォックスの続きです。
「え、しゃ、喋ったー!?」
「喋れるけど? だって……普通のキツネじゃないし」
ふてくされるキツネ。
「普通のキツネじゃない……? じゃあどんなキツネ?」
キツネは話を続ける。
「ボクは数日前まではごく普通の野生のキツネとして暮らしてたんだけど、なんか変な奴らに捕まって、『振袖のカケラ』の探知機に改造されちゃったんだ。もっとも、昨夜脳を改造される前に逃げることができたけど」
「振袖の……カケラ?」
夢の中で少女が言っていた謎の言葉を再び聞くことになり、驚嘆しつつもそれがどんな物体なのかを確認するために見せてもらう。
「これのこと」
キツネは背中から七色に輝く結晶を一つ取り出す。目を奪われるような輝きにさくらは目を輝かせるが、キツネが慌てだす。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「……ない! 奴らのとこからカケラを4つ持ち出したのに、3つなくなってる!」
背中をいくら探してもあるはずのものがないことに狼狽えるキツネの頭をさくらは撫で、肩掛けカバンの中にキツネをしまう。が、キツネはカバンのチャックを中から開けて顔だけ出してさくらに抗議する。
「いきなり何するんだよ!」
「大丈夫、私が一緒に探してあげる! 一緒のが効率いいし! あっ、まだ名前言ってなかったっけ。私はさくら、火宮さくら。あなたは?」
「……まだない」
想定外の答えに戸惑うさくらだったが、ちょっと間が空いてから、再びキツネを安心させるように声をかける。
「あなたの名前なんだけど、イナリ、なんてどう? ここ神社だし、キツネだし」
「まあ、それでいいけど……」
「じゃあ決まり! イナリ、一緒に行こう! あと、もうなくさないようにカケラは私が持っておくね」
振袖のカケラを制服の胸ポケットにしまってから、さくらは顔だけ出してカバンに入ったイナリと共に神社を出ようとしたところ、祖父であるた火宮幹夫が帰ってくる。彼こそがさくらに振袖小町の伝承を昔話として伝えた人物である。
「あ、おじいちゃん」
「さくら、どうしたんだい? ん? その子は……?」
カバンに頭だけ出したイナリに気づい幹夫が尋ねる。返答に困るさくらだったが、捨てられていたところを拾ったから家で飼いたいと話す。捨てられていた、というくだりにイナリは不服であったが、単独行動を続けているのも危険なためぐっとこらえる。
「よしわかった。お母さんには私から話をつけておこう」
「ありがとう! じゃあ私帰るね」
「気を付けるんだよ」
町に向かうさくらの後姿を見送る幹夫。しかしその胸中は複雑なものであった。
「(あのキツネ……もしや……)」
何も知らない孫の前だったため口には出さなかったが、イナリの姿かたちを見た瞬間彼は自分が孫に伝えた昔話が現実のものとして再び蘇る、そんな予感がしていた。
このおじいちゃん、只者じゃありません。リアルではこういったお年寄り、減りましたよね。




