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『イデ、レリを見舞う』

挿絵(By みてみん)


「アンディって、ちょっと可愛いわよね」


イデの旦那、リンカイが

乾いた洗濯物を畳みながら言った。


今日はイデとリンカイ、そして息子のカンが

三人でレリを見舞う日だ。


軋本家の全員が一度に病室に押しかけたら

レリが疲れるのは目に見えている。


そこで、一日ひと組。

二人以上、四人未満で

順番に顔を出すことに決めた。


「アタシこの間、キトラ婆と食事した時にさ」


イデは化粧をしながら言った。


「アンタが、お義母さんに似てきたって

モノマネして見せたら、ウケたわよ。

キトラ婆にも、アンディにも」


「もうっ、イデったらやめてよ。

自分でもわかってるけど、仕方ないのよ」


「べつに、いいわよ。

見せて回ったから、みんな知ってるし。

今日、レリにもして見せちゃう」


リンカイは手際よく洗濯物を仕舞ってきて

カンの支度を手伝い

自分も鏡の前に立った。


「さ、行きましょ。顔、出来たから」


イデとリンカイは同時にそう言って

顔を見合わせて笑った。


*****


ソリタ大学病院に着くと

メインレセプションAIが

ペイシェントレセプションAIのところまで

三人を案内してくれた。


そこからは、ドロッチャの案内で

レリの病室へ向かった。


途中のランディングに

研修中のレトロなメンズタイプが

十体以上も集まっていた。


リンカイは興味津々で

通り過ぎてからも、何度も振り返った。


リンカイが女性化して間もない頃は

そういうことがあるたびに

イデも少し気味悪がっていた。


それもこれも

一過性のことだろうと思っているうちに

イデの方が先に慣れてしまった。


今ではむしろ

リンカイのそんな様子を

面白がって、楽しんでさえいた。


「ねぇ、イデ! ちょっと見て!

あのコ。ほら!」


どうせまた、好みのコがいたんだろう。


イデはカンの手を引いたまま

振り返りもせず

ドロッチャと並んでスタスタと歩いていった。


「……気のせいかしら?」


リンカイはもう一度

ランディングの方を振り返ってから

イデのあとを追った。


*****


レリの病室の前に着くと

ドロッチャは一礼して

ナースステーションの方へ歩いていった。


ドアを開けると

レリはちょうど

アンドレアに介助してもらいながら

食事を済ませたところだった。


アンドレアはにこやかに会釈して

食事のトレイを片付け

椅子を運んできた。


「ご飯、食べられるようになったのね」


イデが嬉しそうに言うと

レリは少し考えてから答えた。


「別腹、失くしてきたかも。あの世に」


「あら! 行ってみたの?」


「そのままヨソに行くとこだった」


「やだ、あんたがヨソ行ったら

話が合う年齢になるまで待ってなきゃなんない」


イデは椅子に腰掛け

リンカイからカンを受け取って

自分の膝に乗せた。


「重たくなったよねとか、同意してもらわないと」


「うん。だから戻って来た」


そういうことを言ってくれるのが

レリは嬉しかった。


「戻れるんだ?」


「うん、ちょっと厄介なことになったけど」


レリがそこで口ごもると

イデは身を乗り出した。


「何それ? 面白そう。聞かせて!」


そう言ってから

イデはアンドレアの方をチラッと見た。


アンドレアは頷いた。


『どうぞ』と言う代わりに

両手でそっとドアの方を示した。


リンカイがイデの膝からカンを抱き取り

アンドレアと一緒に廊下へ出た。


ドアが閉まると

イデは椅子をベッドのそばへ引き寄せた。


「厄介なことって?」


「連れて来ちゃった」


「え? 誰を?」


「みんな。連れて来ちゃった。

その辺にいるかも」


イデは思わずキョロキョロした。


誰もいない。


少なくとも、イデには見えない。


「ヨソには行かないって決めたんだけど

そうしたら、こっちにも帰れないとこだったの。

でも、幸か不幸か

すんごい人数の賛同者がいて。

だから、帰れたみたい」


「大丈夫。あんたのことだから

本当だと思って聞いてるよ」


イデはそう言いながら

レリの手を握った。


「ありがとう。イデだから話してる」


レリもイデの手を握り返した。

まだ弱々しいが、それでも力を込めて。


「それで、どうすればいいの?」


「まだわからないけど」


レリは続けた。


「彼らが行くところを定めるまで

私にツイてる」


「どれくらいいたの?」


「伊月家とウチとで、七十二人」


「そりゃ大変だ」


*****


リンカイはカンを連れて

プレイルームに行った。


しばらく遊んでいたが

カンが飽きたので

今度は図書室へ向かった。


途中でさっきのランディングの前を通ったが

もう誰もいなかった。


その少し先で

正面から、研修中のメンズタイプが

数体まとまって歩いてきた。


カンとリンカイに道を譲ろうと

彼らが脇へ寄り、一列になった。


その列の中ほどにいた一体を見て

リンカイは、さっき

誰を思い出しかけたのか、ようやくわかった。


驚くほど似ていた。


レリの、元恋人に。

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