第19話 マルのいいところ
朝夕は寒いと感じるようになってきた。
ボーイは、昨日、旅立っていった。
「スーやん、頑張れよ」
ボーイは坊主と呼ばなかった。
まん丸だったエースは、近々出走するらしい。追い立てられていた。
……この年齢だった時のカイザーの記憶はない。
「スーやん、今日は胸を貸してくれないかな」
ノブさんが、マルを連れてやってきた。
今日の俺のパートナーは、ナツさんだ。
「マルは、平地でも障害でも、まだ未勝利だ。そろそろ結果を出さないといけない」
ノブさんは、俺をにらみつけるマルをなだめる。
「僕は、レースで興奮して折り合いを欠くのが問題だと思っている。
スーやんと以前走ったときが、顕著だったから。ナツさんよろしくね」
ノブさんがナツさんと話している間中、マルは俺をにらみつけていた。
こんな視線を感じたのは、カイザーの時もなかった。
俺は頼れる親友のエースを思い浮かべながら、マルに話しかけることにした。
「マル、俺はスーやんだ。子ぶ……、今日はよろしく」
あやうく、子分にしてやると言いかけた。
そうじゃない。ぎりぎり無難な声かけをしたと思う。
「……ノブさんを取り返すつもりか?」
マルは、ちょっと迷った感じで返してきた。
「誰に乗るかは、俺には決められないよ」
怒られるかな。俺は恐る恐る言ってみた。
「じゃ、誰が決めてるんだよ!!!」
「……ノブさん?」
「ノブさんがお前を選んだってことか!!」
マルが詰め寄ってくる。顔近い。
「……ノブさんに、どうしても乗りたいって思ってもらうしかないんじゃないかなぁ」
あんちゃんは、俺にどうしても乗りたいって思ってくれてるのかな。
ふと、あんちゃんの顔が思い浮かんだ。
カイザーの時は、こんなこと考えたことなかった。
マルが興奮している。鼻息が近い。俺は我に返った。
「一緒に走りたいって思ってもらえたら、嬉しいね。」
「……」
「でも、他の人とコンビを組んだら、相手の良さがもっと見えるよ。
俺に乗っていないノブさんは、すごかった。
俺も、スーやんすごいって思われたい。」
「……オレ、お前に負けた。カッコ悪いところ見せた」
マルがしょんぼりとする。
「いい所を見せるための練習しよう。俺がマルのいい所見つけるよ」
「オレのいい所……?」
「ノブさんにアピールする!!」
マルの目が輝いた気がした。
マルと一緒に障害コースを走る。
ジャンプで俺が先行する。直線でマルが追いついてくる。
1周しただけで、マルの息があがってきた。
「……お前、手抜いてるのかよ。息上がってないし……」
マルがきつそうな顔で、にらみつけてきた。
「俺は手を抜いてないよ。スタミナがあるだけ。」
マルはうつむいた。
「マルは、スピードが俺よりあるね。俺はそんなに加速できない。
直線だけならマルの勝ちだよ。」
「でも、オレはお前に負けた……。」
「マルがスタミナつけて、ジャンプが上手くなったら、俺は勝てないよ」
「本当?」
「悔しいけどね。直線で全力なのにマルに追いつかれていたよ」
「どうやったら、お前に勝てる?」
マルの目が光る。顔近いって。
「先輩に教わったジャンプのコツ教えるよ」
俺は、ボーイの言葉をマルに伝えていく――。
今日一日でマルと仲良くなれた気がする。
「マル、障害レースでいきなり、竹の障害が増えてることあるよね?」
「……あるね。」
「なんでか知ってる?」
「知らない」
「そっかぁ、俺、竹が生えてきてると思うんだ。」
「!!!!!」
マルは目を見開いた。
「それで竹の芽がでてないか、いつもチェックしてる」
マルはぶるぶると震えだした。
「それ途中で刺さったりするのか?!」
「生える前に駆け抜けるしかないかも」
「オレもよく見て回るようにする……」
竹の謎は解明できなかった。
次のレースでマルは初勝利を収めたと聞いた。
また、レースで一緒に走れるかなぁ。
そして俺も次の重賞レースを勝ち取った。
あんちゃんが、新馬戦の時と同様に「すうううやん」と俺に抱き着き、鼻水をつけてきた。
俺の名前は「すうううやん」じゃないって。
あとスタンドの声援の『スイートポテト』って俺のことだよね。
俺にもファンができた。
『変顔して』ってあんちゃんへのリクエストかなぁ。
検量室前で、おっさんがお手製のリンゴ飴をくれた。
「スーやんは、これが一番好きそうだね」
ぽりぽり……俺はしっかり、リンゴ飴を噛み締めた。
今までで一番おいしい気がした。
おっさん、あんちゃんに鼻水つけられたよ。早くシャワーしてー。
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本人は☆よりリンゴを要求すると思うので。




